菅義偉首相は今月13日、緊急事態宣言を11都府県に拡大した際、一部の外国人に限って認めていた入国緩和も「一時停止」した。ただし、すでに日本のビザを取得している実習生や留学生の入国は21日まで続いた。わざわざ1週間の猶予を設けてまで、彼らを受け入れたかったのである。

 昨年11月から年明けまでの10週間で、11万人近い外国人が来日した。そのうち7割は実習生と留学生だ。そして、全体の3分の1に当たる3万6000人以上がベトナム人である。入国緩和措置の目的が、ベトナムなどからの出稼ぎ労働者受け入れだったことがわかる。

 菅氏は万全の水際対策を取ったと胸を張る。だが、本当にそうなのか。

■ザルのような水際対策

 12月、東京都内の日本語学校に留学するため来日したフーンさん(26)には、日本の対応が驚きだったという。

「私はベトナム出発前も成田空港でもPCR検査なしに日本へ入りました。空港からの移動や、その後の生活もほとんど制限なし。ベトナムではありえないことです」

 ベトナムは12月以降、全世界からの入国を実質止めている。それ以前も入国者は皆、2週間の厳格な隔離措置が義務づけられた。フーンさんが言う。

「外国人は高級ホテル、ベトナム人だと軍の施設などに拘束されて2週間を過ごします。その間、2回のPCR検査を受け、完全に陰性だと証明されて、やっと解放されるのです」

 結果、ベトナムは台湾などと並び、コロナの封じ込めに成功している。

「それでも完璧とは言えません。隣の中国から密入国する人もいるし、変異種に感染したベトナム人も見つかっている」

 フーンさんは成田空港へ到着後、知人の車でアパートまで移動した。そして2週間は、外出は極力控えたという。

「留学先の日本語学校が、私の居場所をスマホの位置情報で確認するようになっていました。でも、スマホをアパートに置いていれば、何をするのも自由です。友だちとパーティーだってできてしまう。日本でコロナ感染が広まった理由がわかりました」

 ベトナム人が日本へウイルスを持ち込んだ可能性は低い。だが、ベトナムを含め、入国制限緩和措置の対象となっていた11カ国・地域の多くでは、問題の変異種もすでに確認されている。

 1月7日に緊急事態宣言がまず1都3県に出された後も、菅首相は「コロナ陰性証明」を条件に外国人の入国継続にこだわった。出稼ぎ労働者の受け入れを重視してのこと。こうした姿勢が、水際対策の緩みにつながった可能性は否めない。

 現在の感染爆発の要因としては、やはり菅氏肝いりの「Go To キャンペーン」も指摘されている。だとすれば、2つの「経済優先」政策が招いた人災と言うしかない。

日刊ゲンダイ
2021/01/23 06:00
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