新型コロナウイルスの感染急拡大を受け、政府は7日、首都圏の1都3県を対象に緊急事態宣言の再発令を決めた。「遅きに失した」「対応が後手後手」という批判は、すでに聞き飽きるほど出ているので、ここで繰り返すことはしない。ただ、この問題は考えれば考えるほど、どんどん意味が分からなくなってくる。これは本当に「緊急事態宣言」なのだろうか。(ジャーナリスト=尾中香尚里)


▽「Gotoイート」打ち出していたのに

 まず驚いたのは、今回の宣言が「飲食店の営業時間短縮」をターゲットにしたことだ。菅義偉首相は、緊急事態宣言の再発令を表明した4日の記者会見で、緊急事態宣言の必要性についてこう述べた。

 「経路不明の感染原因の多くは飲食によるものと、専門家が指摘いたしております。飲食でのリスクを抑えることが重要です。そのため、夜の会合を控え、飲食店の時間短縮にご協力いただくことが最も有効ということであります」

 わずか半月前に「ステーキ会食」「はしご会食」で散々国民の批判を受けた張本人が、堂々とこう口にしたのである。

 そもそも「GoToイート」なる経済振興策を打ち出して、国民に会食するようあおってきたのは、当の菅首相自身である。その人がいきなり、つい先日まで訴えてきたのと正反対のことを、何の総括もなくいきなり打ち出す。

 菅首相はこれで本当に「国民はついてくる」と考えているのだろうか。

 先月24日公開の小欄「菅政権はなぜ国民の行動に口先だけ介入するのか」でも指摘したが、菅首相はおそらく「会食しても感染拡大の恐れが少ない」、すなわち「会食を自粛しても感染拡大防止の効果は小さい」と考えてきた。だからこそ、専門家に飲食と感染原因の関係を指摘されても、平然とそれを無視して会食を続けてきたわけだ。

 それを改めて正反対の施策を打つというのなら、まずこれまでの施策の誤りを明確に認めた上で、判断を大きく変えた理由を、誰にでも分かるように懇切丁寧に説明すべきではないか。そして「GoTo」に期待し、それを織り込んで営業を続けてきた飲食店に対しては、政府の場当たり的な政策変更で死活的な影響を与えてしまうことに、心のこもった謝罪と、丁重な協力依頼が最低限必要だろう。

 何事もなかったように突然「これからは『会食NG』の方向で行くからね、よろしくね」と言われて、それで国民が納得すると思っているなら、首相は相当に甘いのではないか。

 ▽4知事への時短要請から2日で方針転換

 訳が分からないのは、緊急事態宣言の肝である「飲食店の午後8時までの時間短縮」は、すでに西村康稔経済再生相が2日、首都圏の4知事に要請済みであることだ。少なくとも2日の段階では、菅政権は緊急事態宣言を出すことなく、法的根拠を伴わない時短要請で乗り切ろうと考えていたはずだ。

 なぜ菅首相が、わずか2日で「緊急事態宣言を出して法的根拠のある要請に切り替える」と判断を変更したのか、全く分からない。

 4日の記者会見で菅首相は「飲食の感染リスクの軽減を実効的なものにするために、内容を早急に詰めます」と述べた。なるほど、先に出した要請の実効性をさらに高めて、多くの店に時短要請に従ってもらうために緊急事態宣言を出す、ということなのかもしれない。

 でも、そうであれば、お店への補償(給付金)であれ罰則であれ(筆者は罰則の効果については極めて懐疑的だが)、要請の実効性を高めるための新たな「武器」が必要だろう。その「武器」となるものが、緊急事態宣言の根拠法である新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正である。法改正がまずあって、補償なり罰則なりの「武器」を用意して、それから緊急事態宣言を出すのが筋だ。

 ところが、菅首相はこう言うのだ。

 「給付金と罰則をセットにして、より実効的な対策を採るために、特措法を通常国会に提出いたします」

 緊急事態宣言を出した後に特措法を改正するという。ということは、緊急事態宣言の発令前に出された時短要請と、宣言発令による時短要請とでは、少なくとも「実効性を高める」意味では何の違いもない、ということにならないか。

 ここまで考えて、筆者は本当に分からなくなった。

 菅首相は一体何のために、緊急事態宣言を発令するのか。緊急事態宣言が発令されることで、政府のコロナ対策は、何か新しい段階に突入するのか。とてもそうは思えない。

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47NEWS
1/7(木) 17:52配信
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