菅義偉・首相の学術会議人事問題を主導したのは杉田和博官房副長官だと言われる。同様に様々な施策に主導的に携わっているのが、北村滋国家安全保障局長と和泉洋人・首相補佐官。彼らは“官邸官僚”と呼ばれる。

 そんな官邸官僚は、安倍政権時代にも目立った動きを見せていた。安倍政権時代は“側用人”と呼ばれた今井尚哉・総理首席秘書官兼首相補佐官を中心とする経産官僚出身の官邸官僚が内政、外交に権勢を振るった。官邸官僚の力関係が菅政権になると一変した。『官邸官僚 安倍一強を支えた側近政治の罪』の著者でノンフィクション作家の森功氏が語る。

「安倍官邸は今井氏を中心とする安倍側近官僚、和泉補佐官たち菅側近官僚、杉田官房副長官、北村国家安全保障局長ら警察官僚の3つのグループが権勢を競い合い、対立していた。政権末期は今井氏ら経産官僚がアベノマスクを配るなどコロナ対策で暴走、菅氏と側近官僚グループは中枢から外された。しかし、菅氏が首相になると逆に経産官僚を官邸から追放し、警察官僚と菅側近官僚に集約され、いまでは政権全体を和泉氏が仕切るようになってきた」

“新・側用人”の登場だ。しかし、側用人とはもともと江戸幕府で将軍の命令を執政官である老中に伝える役目だが、菅首相は安倍前首相と側用人の使い方が違う。

「実務家を自任する菅総理は、好みの官僚やブレーンの業界人の提案に飛びついて実現させてきた。和泉氏の提案も丸飲みしてゴリ押しさせる。その傾向は総理就任後、さらに強まっている。官僚はすでにバックに菅総理がいることがわかっているから、和泉氏は安倍時代のように『総理のご威光』という必要もない。これをやろうと思えば菅総理に提案し、丸飲みさせて官僚に指示すればいい。そうすれば官僚はそのまま実行していく」(同前)

 そうなると、首相と補佐官の主客転倒である。今井氏と和泉氏は官僚のタイプ、権力行使の目的が違うと分析するのは元代議士の政治評論家・木下厚氏だ。

「同じように権力を握っても、総理秘書官だった今井氏は安倍首相個人に仕え、守るという意識が強かった。安倍さん個人に忠誠心を向け、助言し、その意向を実現するために権力を使った。

 一方の和泉氏のこれまでの言動を見ると、ノーベル賞学者の山中伸弥・教授にiPS細胞研究への国の助成を打ち切ると恫喝したり、沖縄のヘリパッド建設をめぐる民間企業への便宜供与提案にしても、その行動のインセンティブは、菅氏の威光をバックに権力を振るえるという部分にあるように思える。権力を得るために菅首相の忠実な部下となっているのではないか」

 権力に貪欲な“官邸官僚”に操られる菅政権は、国をどこに向かわせようとしているのか。

※週刊ポスト2020年11月6・13日号

2020.10.30 07:00
https://www.news-postseven.com/archives/20201030_1607621.html