第203臨時国会が26日召集され、菅義偉首相が所信表明演説を行う。就任後初の国会論戦は28日、衆院本会議の各党代表質問から始まる予定で、最大の焦点が日本学術会議の新会員任命拒否問題だ。違法と指摘されていることに加え、憲法が保障する学問の自由を侵しているという懸念は強いが、政府は経緯や理由を明確に説明しておらず、野党は徹底追及の構えを見せる。(生島章弘)

◆誰が6人の除外を判断したのか
 問題が発覚したのは10月1日。前任者の任期満了に伴う新会員の改選数が105人なのに対し、首相は99人しか任命せず、学術会議が推薦した6人を除外していた。
 学術会議が推薦名簿を提出したのは8月末だが、内閣府が決裁文書を起案した9月24日の段階で、既に候補者リストには99人しか載っていなかった。誰が6人の除外を判断したのかについて、政府は「個々の選考過程はコメントを控える」(加藤勝信官房長官)と口をつぐんでいる。
 政府関係者らの証言で、2016年以降の会員補充や改選で、事務担当の杉田和博官房副長官が学術会議に前もって人事案を示すよう要求したり、候補者の差し替えを迫ったりしていたことが判明。首相は今回の人事で105人の名簿を「見ていない」と発言したが、杉田氏から複数人の任命を拒否すると事前に報告を受けたことも分かっている。
 立憲民主党の安住淳国対委員長は杉田氏が詳しい事情を知っているとみて「説明する責任がある」と国会招致を要求。自民党の森山裕国対委員長が「事務の副長官が国会に出るのはあまり前例がない」と難色を示すなど、既に場外戦は激しさを増している。

◆抽象的な説明をするだけ
 首相は6人の除外に関し「総合的、俯瞰的活動を確保する観点」と抽象的な説明をするだけで、詳しい理由を明らかにしていない。
 6人は、いずれも安倍政権で成立した安全保障関連法や特定秘密保護法などに反対の論陣を張っていた。人事を通じて異論を封じ込めるのは首相の政治手法の特徴でもあり、政府に批判的な言論が任命拒否につながったという見方も出ている。安住氏は「(首相)本人にきちっと話してもらう。国民が見て納得する論戦を挑みたい」と強調する。

◆名簿を見ていない首相に法的な問題は
 日本学術会議法は会員を選ぶ方法に関し、学術会議の推薦に基づき首相が任命すると規定。菅首相が105人の名簿を見ていなかったことや、拒否した行為は法に反するとの指摘がある。
 1983年の法改正で会員は特別職の国家公務員として、首相が任命する仕組みになった。政府は当時の国会で「政府が行うのは形式的な任命」などと答弁し、推薦後に拒否した例は確認されていない。
 だが、今回は公務員の選定・罷免を国民固有の権利と定める憲法15条などを持ち出し、推薦通り任命する「義務があるとまでは言えない」という新たな主張を展開。従来の法解釈や運用と明らかに異なるが、矛盾はないと主張する。

◆「学問の自由が脅かされる」
 学術界では「不当な人事介入によって学問の自由が脅かされる」として、分野を超えて反発が広がる。共産党の志位和夫委員長は「違法、違憲だ」と断じ、追及していく構えだ。

東京新聞
2020年10月25日 05時50分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/64042/