日本学術会議の新会員任命拒否問題で、任命可否の判断に関与していたことが明らかになった杉田和博官房副長官(79)は、第2次安倍政権発足時から現在まで約8年間にわたり政府の事務方トップを務めている。政権が関係する人事に強い影響力を行使しており、今回の任命拒否もその延長線上にあるとみられる。

 官房副長官は官房長官を補佐する特別職の国家公務員。内閣法で3人置くと定められている。政務担当として衆参両院の国会議員から1人ずつ、事務担当として官僚出身者から1人を任命することが慣例で、事務担当の副長官は官僚機構のトップに位置付けられる。

 杉田氏は警察官僚出身で、警察庁警備局長や内閣危機管理監などを歴任。2012年末の第2次安倍政権発足とともに官房副長官に就任した。ともに安倍政権を支えた菅義偉首相の信頼は厚く、多くの官邸幹部が入れ替わった新政権でも再任された。

 17年からは中央省庁の幹部職員の人事を一元的に管理する内閣人事局の局長も兼務。官邸の意向を各省庁の人事に反映させた。

 日本学術会議の会員選考でも、17年に会員の半数が交代した際、当時の会長と繰り返し面会。選考途中の推薦候補の名簿の提示を受けるなどの事前調整をしていた。(井上峻輔)

◆杉田氏、16年には文化審委の変更も要求 前川元文科次官が証言

 前川喜平元文部科学次官は13日の野党会合で、次官在任中の2016年にかかわった審議会委員の選考を巡り、杉田和博官房副長官から政権に批判的な候補者を差し替えるよう指示されたと証言した。前川氏は日本学術会議の会員任命拒否問題に杉田氏が関与したことについて、16年の対応の「延長線上にある」と指摘した。

 前川氏によると、差し替えを求められたのは、文化功労者や文化勲章受章者を選考する文化審議会の分科会の新任委員候補者。閣議了解が必要な人事のため、事前に協議した際、杉田氏が候補者リストの「安全保障関連法に反対する学者の会」のメンバーら2人を指して「こういう政権を批判する人物を入れては困る」と除外を求めたという。

 前川氏は、文科省が所管する独立行政法人の役員人事などでも同様の対応が繰り返されたと説明。こうした要求について「杉田氏の一存でできるはずがない。官房長官まで話を上げているはずだ」と、官房長官当時の菅義偉首相が関与していたとの見方を示した。

 学術会議問題については首相や杉田氏が「一審議会の人事のように、かなり安易に考えたのではないか」と語った。

 前川氏の一連の発言について、加藤勝信官房長官は記者会見で「当時のことを承知していない」と述べ、事実関係には言及しなかった。(木谷孝洋)

東京新聞
2020年10月14日 05時50分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/61599/