菅義偉首相が日本学術会議の会員候補6人を任命しなかった問題で、政府・自民党は学術会議の組織見直しを打ち出した。守勢に立たされている現状を、行政改革という新たな論点で局面転換する狙いがあるとみられる。ただ、問題は「政府・自民党」対「学術会議・野党」の対立構図で激しさを増しており、思惑通りとなるかは見通せない。

 「学術会議の役割に関心が集まっている。これを機会に学術会議の在り方がいい方向に進むようなら歓迎したい」。菅氏は9日のインタビューで、学術会議見直しの動きが出ていることを評価した。

 具体的な見直し対象は、年間約10億円の学術会議に関する国の予算や、学術会議の事務局員50人体制などだ。政府高官は「この機会に準民間組織にしてもいい」とけん制する。自民党も学術会議の在り方を検討する党プロジェクトチームを来週発足させ、活動状況や組織形態など問題点をあぶり出す構えだ。
 組織論に照準を合わせる政府・自民党には、任命見送り問題から国民の目をそらしたいとの思惑が透ける。この日のインタビューでも菅氏は「国の予算を投じる機関として国民に理解される存在であるべきことを念頭に判断した」と述べるだけで、任命しなかった具体的理由は明らかにしなかった。
 ある政府関係者は「こういう答弁しかできない。説明できる理屈はない」と形勢が不利な状況にあることを認めた。自民党幹部も「政府が議論をすり替えようとしている」と解説した。
 一方、野党は元学術会議会長の大西隆氏らを会合に招くなど追及の手を緩めていない。大西氏は会合で2016年の補充人事の際、首相官邸が人事案に難色を示したと明かし、安倍政権下での人事への不当介入を印象付けた。今回の任命見送りについても「選考基準と違う基準を適用して任命拒否したとなれば法律違反になる」と批判した。
 野党は学術会議を行革の対象とする動きを問題視している。「全く別のことを持ち出し、学術会議の改革と言うつもりか。議論のすり替えだ」(共産党幹部)と非難。立憲民主党幹部も「こういうのは触らないでおくのがいいのに」とほくそ笑んだ。

時事通信
2020年10月10日07時09分
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020100901161&;g=pol