菅義偉氏に抵抗して左遷されたとされる元官僚がいる。平嶋彰英さん(62)。現在は立教大特任教授(地方税財政)を務める平嶋さんは総務官僚当時、菅氏肝いりの政策である「ふるさと納税」の問題点を訴え、前政権で問題になったような忖度(そんたく)をしなかった。平嶋さんが考える、新首相となった菅氏の実像と官僚のあるべき姿とは。【聞き手・竹内麻子】

 ――平嶋さんは総務省自治税務局長だった6年前、菅氏が力を入れる「ふるさと納税」の拡充策に反対意見を述べたために、更迭されたと聞いています。

 ◆官房長官だった菅さんからふるさと納税の寄付控除の上限を倍増させるよう言われたので、「返礼品の制限を検討した方がいい」と訴えました。現在問題になっている高額返礼品競争のような事態が想定されていたからです。自治体に通知で自粛を要請するだけでなく、法律に書きたかったのですが、菅さんからは「通知だけでいいんじゃないの。総務省が通知を出せばみんな言うこと聞くだろう」と言われました。高額所得者には自己負担を入れる案も提示しましたが、却下されました。私個人の意見ではなく、大臣を含め省内で了解した内容です。

 ――その後、アマゾンのギフト券を返礼品にした大阪府泉佐野市が自粛通知に従わなかったとして、国がふるさと納税制度から外しました。この手法が問題になり、国が敗訴する混乱もありました。

 ◆こういうことが起きないように制度を作らないといけなかった。制度の担当局の責任者として申し訳なく、忸怩(じくじ)たる思いを抱いています。

 ――最終的には、菅氏の意向に従って拡充を進めましたが、翌年に自治大学校長へ異例の異動がありました。

 ◆官房長官室で菅さんに「時間切れはダメだ」ときつい顔で言われたときに、「これはやばいな」と思いました。「これで許したら俺の沽券(こけん)に関わる」と顔に書いてありましたから。私が帰った後、他のアポイントを外して、私の上司らに電話をかけまくったらしいです。菅さんは「政権の決めた政策の方向性に反対する幹部は異動してもらう」と公言していますが、制度設計の段階で問題を指摘しただけで左遷するのでは、まともな検討はできません。省内はみんな、ふるさと納税に触らなくなりました。私以外にも菅氏に抵抗して左遷された人はいます。菅さんには、問題点を把握して見直しを指示するだけの度量と見識があってほしいですね。

 ――ふるさと納税については、「都会で暮らしているがふるさとのために貢献したいと思う人は多い」と話し、秋田県で…

毎日新聞
2020年9月21日 11時15分
https://mainichi.jp/articles/20200921/k00/00m/010/077000c