新型コロナウイルス感染者が急増する中、政府が観光支援事業「Go To トラベル」キャンペーン開始を急ぐ背景には、コロナ禍にあえぐ日本経済を早急に立て直さなければならないとの首相官邸の焦りがある。

 熟慮を欠いた官邸は世論の反応を読み誤り、場当たり的な対応を繰り返した。キャンペーンを引き金に感染が広がれば、政権に新たな打撃となるのは避けられそうにない。

 安倍晋三首相は21日の自民党役員会で、キャンペーンについて「夏休みに観光客の足が遠のけば観光産業にとって死活問題だ。予定通り実施する」と説明。「やむを得ず東京発着の旅行は除外した。キャンセル料は旅行者に不利益が発生しないようしっかり対応したい」と約束した。

 観光庁が当初計画したキャンペーンの開始時期は8月上旬。それを22日に前倒ししたのは「23〜26日の4連休前に始めるべきだ」(政府高官)との官邸の意向からだ。観光客の激減に苦しむ地方から悲鳴が上がり、官邸は「国がつぶれる」(政府関係者)と危機感を強めていた。

 だが、その後の対応は迷走した。

 東京都の小池百合子知事がキャンペーン開始に疑問を呈した13日、官邸は「反対は一部」(高官)と全国一律の実施を貫く構えだったが、首都圏からの旅行者を歓迎しない地方から慎重論が噴出すると空気は一変。16日午前、首相、菅義偉官房長官、今井尚哉首相補佐官が秘密裏に協議し、東京除外を決めた。赤羽一嘉国土交通相が除外を正式に発表したのは翌17日だ。

 迷走はこれで終わらなかった。東京除外に伴うキャンセル料について、菅長官は同日の記者会見で「特別の対応を行わず、旅行会社に判断いただく」と説明した。だが、これには与党からも再考を求める声が上がり、21日になって国として補償する方針に転換せざるを得なくなった。

 一連の混乱は、官邸がキャンペーン開始をあまりに急いだ結果と言え、実際、制度は前日になっても生煮え感が拭えない。21日の野党のヒアリングでは、政府として自粛を求める「若者の団体旅行」「高齢者の団体旅行」の定義を観光庁の担当者が答えられず、野党議員から「現場が混乱する」と批判の声が上がった。

 政府は8月1日のイベント制限緩和は見直す方向で検討しており、ちぐはぐさも否めない。自民党の閣僚経験者は「キャンペーンで感染が広がれば『政権は何をしているんだ』『首相が感染を広げた』という声が高まる」と懸念し、「政権にとって賭けだ」と指摘した。 

時事通信
7/22(水) 7:11配信
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