新型コロナウイルスの感染者数は各地で増加傾向にあるが、政府は東京だけを除外して、22日から「Go To トラベル」キャンペーンを始める予定だ。こんな時期に国を挙げて旅行を推奨するのは正気の沙汰ではない。さらに感染が蔓延するのではないかと多くの国民が不安を感じている。

「Go To」キャンペーンがウイルス感染を拡大させて国民の生命や健康を害する恐れがあるとして、東京都や栃木県の住人が16日、事業の差し止めを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。

 この事業は感染流行が収束した後に実施される前提で国会の議論が行われていた。再び感染者数が増えている状況でキャンペーンが始まれば、無症状者が感染を拡大させて、生命や健康などの重要な法益に回復不能な損害が発生する恐れがあるとしている。

 そういう危険を予見できるのに、旅行キャンペーンを強行すればどうなるか。もし、国が定める感染防止のガイドラインを宿泊施設や旅行者がしっかり守っていても感染が広がり、観光地でクラスターが発生して、死に至るようなケースが相次げば、国家賠償責任が発生する可能性だってあるのではないか。

 千葉大学名誉教授の新藤宗幸氏(行政学)が言う。

「裁判所が違法性を認めるかは別として、訴訟を起こされる可能性はあるでしょう。感染拡大リスクについては、予見可能性も回避可能性もあったと考えられます。公害などと違って因果関係や発生源を特定しづらいため、政府の国家賠償責任は認められにくいでしょうが、感染が拡大している中で、ウイルス拡散のリスクを高める旅行を推奨することは、国民の生命と健康を守るという政府の本来の役割と真逆の方向性を持った政策と言えます」

 国民の健康より経済優先で進めるキャンペーンで全国に感染が広がれば、政府の責任は免れない。

日刊ゲンダイ
20/07/19 06:00
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