これまでとは雰囲気が違う

これは明確な「反撃の狼煙」、「次期総裁」への決意にほかならないのではないか——話を聞きながら私は驚いていた。

安倍政権が始まってからというもの長い間苦汁の日々を送ってきたこの男は、これまでも折に触れて政権批判や発言を続けてきた。しかし、この発言はこれまでとは質と重みが違う。

沖縄に深く踏み込んだからだ。

「これしかない、とにかく進めるということだけが解決策だとは思っていない」

石破茂自民党元幹事長は7月2日都内の講演で、沖縄・名護市辺野古への米軍飛行場の移設について、現在の政府方針に公然と疑義を唱えたのだった。ひと言ひと言を区切り、自分に言い聞かせるように聴衆に向けて語った。

辺野古は軟弱地盤の存在が明らかになり工期や工費の問題が浮上しているが、安倍晋三政権は「辺野古移設が唯一の解決策」と一切従来の方針を曲げることはなかった。

安倍首相にとって辺野古移設は、日米同盟や安全保障政策の象徴でもある。改憲や日米関係は、岸信介元首相が力を入れていた課題。祖父である岸元首相を尊敬してやまない安倍首相にとって、沖縄の基地問題はまさしく自身のアイデンティティに深く食い込む政策と言える。

そこへ石破氏は異論を放り込んだのだから、安倍首相の喉元に匕首(あいくち)を突きつけたようなものだ。講演では「(工期など)海洋工学の専門家ではないが、時間をかけて検証しないといけない」、また、米側に対して部隊の活動を支援する高速輸送船を日本側が提供すれば、辺野古に移設せずとも普天間返還が実現できるなどと話した。

安倍首相と真っ向からぶつかる

さらに驚くべきは、ついに安倍首相の追従型日米同盟への姿勢に対する批判にまで踏み込んだことである。

「地位協定は運用の改善はもはや限界だと思っている。これは変えてかえていかないと駄目だというのは私の信念に近いものだ。防衛庁長官のときに沖縄国際大学にヘリが落ちたときに、実感として持っている」

私が沖縄問題で石破氏を徹底取材したのは7年前だ。自民党が民主党から政権を取り戻し、第二次安倍政権下で石破氏は幹事長だった。このころ、沖縄へ何度も通い、沖縄県連幹部らと膝詰めで辺野古移設について語り合っていた。

元々石破氏は、日米同盟や安全保障を根本的に見直すべきだと思っていた。東アジアにおける米海兵隊の役割を再検討し、自衛隊による代替も含め、沖縄県外への米軍基地移設も総合的に長期的に考えるべきだという持論があった。つまり辺野古移設は「唯一の解決策」でもなんでもない。本音では安倍首相と真っ向からぶつかるのである。

ただ、政権政党の一員としての立場もある。その立場と持論の狭間で石破茂がこの7年間、整合性をどうつけるべきか悩んできたことは想像に難くない。

ところがついに今回それを明言した。日本の安全保障という根幹へ独自の「沖縄論」や「日米同盟論」を放り込んできたのだ。

繰り返しになるが、石破氏はこれまでも安倍政権に一石を投じる数々の発言をしてきたものの、安全保障に触れたことは重みが違う。明らかに次期総裁・総理を狙う「覚悟」そのものと言っていい。

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