昨年7月の参院選広島選挙区を巡る公選法違反(買収)の疑いで前法相の河井克行容疑者(57)=衆院広島3区=と妻の案里容疑者(46)=参院広島=が逮捕された事件で、夫妻が支部長を務めた二つの自民党支部に党本部が提供した1億5千万円のうち1億2千万円は、税金を原資とする政党交付金だったことが20日、分かった。両支部は、広島県選管へ出した報告書で使い道を示していないことも判明。党本部による説明を求める声が高まっている。

 複数の関係者によると、参院選に向けた党本部から夫妻側への最初の資金提供は昨年4月15日で、案里容疑者の党県参院選挙区第七支部の口座へ1500万円を入金した。第七支部にはその後、5月20日と6月10日にそれぞれ3千万円を入れている。

 克行容疑者の党県第三選挙区支部には、6月10日に4500万円、同27日に3千万円を送った。

 党本部は6月10日まで計4回の入金分の1億2千万円を、政党交付金から拠出した。克行容疑者の支部に出した最後の3千万円だけが、党費や献金からなる党の一般会計からだった。

 両支部はこの春、昨年受け取った政党交付金の使い道の報告書を県選管へ提出したが、目的や金額は明記していない。広島地検による両容疑者の事務所や自宅などの家宅捜索で「関係書類が押収され、使途の内訳が分からず記載できない」と説明しているという。

 党本部から出た1億5千万円の一部は、選挙カーから支持を訴える車上運動員への違法な報酬に充てられたと、中国新聞の取材で判明している。県内の地方議員ら94人に投票や票のとりまとめを依頼し、計約2570万円の報酬を渡したとされる夫妻の逮捕容疑の発端となった可能性もある。

 広島選挙区の党現職として案里容疑者らと争い落選した溝手顕正氏側に、党本部が提供した資金は、10分の1の1500万円だった。溝手氏を推した党県連副会長で県議会の中本隆志議長は「なぜ夫妻の陣営にだけ1億5千万円を配ったのか、党本部の中枢の方々に説明してほしい」と訴える。

 党の二階俊博幹事長は夫妻が離党した今月17日の取材で、夫妻側に渡した資金は「党勢拡大のための広報誌を複数回、全県に配布した費用」に充てられたと説明。公認会計士が支部の支出を確認しているとして「買収資金に使えないのは当然だ」と主張している。

 政治とカネの問題に詳しい神戸学院大の上脇博之(ひろし)教授(憲法学)は「『広報誌に使った』と言いながら、書類がないのにどうチェックしたのか疑問だ」と指摘。多額の政党交付金を一つの陣営に注ぎ込むのは異常だとして「党本部は詳しい過程を速やかに明らかにすべきだ」と話している。(樋口浩二)

 <クリック>政党交付金 政治と特定の企業・業界が癒着するのを防ぐため、企業・団体献金を制限する代わりに1995年に導入された公的な助成金。政党助成法に基づき、要件を満たした政党に対して、議員数や得票数に応じて配分する。国民1人当たりの負担額は年間250円。共産党は制度に反対し、受け取っていない。

中国新聞
2020/6/21
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