陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入計画をめぐり、日本側が想定するソフトウエアの改修だけでは周辺住民の安全を確保できない恐れがあると、防衛省が今年初めの段階で把握していたことが分かった。複数の政府関係者が16日、明らかにした。陸上イージスの安全性に生じた懸念を配備候補地などに数カ月間隠していたことになり、反発が出そうだ。

 政府は2017年12月、陸上イージス導入を閣議決定。自衛隊の新屋演習場(秋田市)とむつみ演習場(山口県萩市など)を配備候補地に選定した。その際、問題として浮上したのが、内陸にあるむつみ演習場からミサイルを発射した場合、切り離された重さ200キロ強の推進装置ブースターが住宅地などに落下する恐れがあることだった。

 防衛省は当初、米側と調整した上で、ミサイルを制御するソフトウエアを改修し、ブースターの落下位置をコントロールすることを計画。この方法により「ブースターを確実に演習場内に落下させる」と約束し、地元の理解を取り付けた。

 しかし、政府関係者によると、米側からは今年2月ごろ、ミサイルや発射装置などハードウエアを改修しない限り、ブースターが演習場外に落下する可能性を排除できないと伝えられた。さらに5月下旬、こうした改修には2000億円前後の費用と12年前後の期間を要することも伝達された。

 行革担当相経験者の河野太郎防衛相はこのころ、同省予算の無駄の排除に乗り出していた。米側からの情報を6月3日に事務方から伝えられると、翌4日には安倍晋三首相に報告。12日に首相と再び会って計画停止の了解を取り付け、一気に突き進んだ。

 ◇官邸主導のつけ

 計画停止は首相官邸主導で配備を推し進めたことに伴う「つけ」が回った結果とも言え、政権の一段の求心力低下につながりそうだ。

 陸上イージス導入決定にはトランプ米政権との関係強化を重視していた官邸の意向が働いたとの見方がもっぱらだ。導入決定前月の日米首脳会談後の記者会見で、トランプ大統領は「日本は大量の防衛装備を米国から買う」と強調。首相は「米国からさらに購入していく」と応じた。

 こうした経緯があったにもかかわらず、河野氏が15日に計画停止を発表するまでの過程で官邸が口を挟んだ形跡は見られない。閣僚経験者の一人は「官邸が河野氏を止められなかったのだろう。政権の体力がなくなってきた証左だ」と語った。

時事通信
2020年06月17日07時13分
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020061601140&;g=pol