政府は検察庁法改正案の今国会成立を断念したが、19日も反対の声が広がる同法改正案とほかの改正案との「抱き合わせ」を維持する方針を示した。検察の定年延長問題の発端となった東京高検の黒川弘務検事長(63)の今後の処遇にも注目が集まっており、批判が収まる状況にはない。

 今後の焦点の一つは、政府・与党が次の国会に向けて継続審議とする方針の検察庁法改正案を、どんな形で審議するかだ。

 同法改正案は、一般の国家公務員の定年を延長する改正案などと抱き合わせた「束ね法案」として、今国会に提出された。政府が必要と判断すれば検事総長や検事長、検事正らを最長3年間、ポストにとどめられるとの「特例」が含まれ、野党は「恣意(しい)的な運用ができる」と指摘。検察部分を切り離すよう求めてきた。

 だが、政府は束ね法案の形を維持する構えだ。安倍晋三首相は18日、記者団が「検察庁法改正案」について質問しているのに、「公務員の定年延長法案」との呼び方で回答を繰り返した。理解を得るために必要な点について「公務員制度改革の趣旨、中身について丁寧にしっかりと説明していくことが大切」と述べ、束ね法案にこだわる姿勢を示した。

 森雅子法相も19日の閣議後会見で一般の国家公務員対象の改正法案と検察庁法改正案について、「同一の趣旨、目的」と説明した。自民党幹部は切り離しを拒む理由を、「野党の手柄になるからだ」と語った。

 もう一つの焦点は、政権に近いとされる黒川氏の処遇。1月末に閣議決定された定年延長の期限は8月で、7月が交代時期ともされる検察トップの検事総長に就くかどうか注目を浴びている。

 1月末の閣議決定は「法的根拠がない」と問題視されてきた。検察庁法には検察官の定年を延ばす規定がないのに、政府が国家公務員法の規定を適用したとして延長したからだ。さらに、同法の規定は「検察官に適用されない」とする1981年の政府答弁の存在が発覚。閣議決定の違法性が指摘されると、首相は過去の法解釈を変更していたと突然、国会で表明した。

 こうした経緯から「脱法」「違法」と指摘される黒川氏の定年延長。それを「後付け」で正当化するための検察庁法改正なのでは、との疑念も広がった。党内にも世論の批判への警戒感は消えておらず、中谷元・元防衛相も18日のBS番組で、「責任を取って辞任すべきだ」と求めた。

 法務・検察内でも、定年延長に「けじめ」をつけるべきだとの声もある。検察幹部の一人は「黒川総長が誕生すれば閣議決定をめぐる議論が再燃するのは目に見えている。悪い意味で注目されてしまう」と話す。

 だが、政府は依然、強気の姿勢を崩していない。菅義偉官房長官は19日の会見で、今国会成立見送りが黒川氏の処遇に与える影響を問われ、「まったく影響はない」と言い切った。(相原亮、野平悠一)

朝日新聞
2020年5月20日 5時00分
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