あれほど「一強」「独裁」と呼ばれた強気の安倍晋三・首相からは、コロナ危機が深まって以来、“オレが国を救ってみせる”という気概が感じられなくなった。

 緊急事態宣言の延長を発表した5月4日の記者会見では「国民の皆様におわび申し上げたい」「責任を痛感」と自らの政治的責任に言及したものの、視線は終始、演壇の左右に置かれたプロンプターに交互に向けられ、そこに映し出された官僚の作文を棒読みするばかりだった。そのため、国民の関心が高い給付金の入金時期について「早い人で8日から」と書かれていた原稿を「8月」と読み間違えても気づかない。

 自民党ベテラン議員は緊急事態延長の記者会見について、こういう。

「総理が『責任を痛感』と弱音を吐くのは珍しい。口にした以上、いずれ責任を取るつもりかもしれない。政治的に見ても、安倍政権による憲法改正はコロナで断念せざるをえない。

 来年に延期した東京五輪も、米国が今の状況では開催は難しいと判断しているという情報が伝わり、総理はガックリきている。ベテラン議員の仲間たちと話をすると、このまま総理を続けてもレガシーを残せない安倍さんはある日突然、気持ちが折れて第1次内閣の再現のように政権を投げ出す可能性が出てきたという人が増えている」

 13年前(2007年9月)、安倍首相は閣僚不祥事が相次いで参院選に敗北した後、臨時国会の所信表明演説で「職責を果たし全力を尽くす」と語ったが、その2日後に突然、「私がいることがマイナスになっている」と辞任を表明した。直後に、持病の潰瘍性大腸炎が悪化して入院することが発表された。

果たして、現在の安倍首相の健康状態はどうなのか。精神科医で国際医療福祉大学大学院教授の和田秀樹氏はこう見る。

「安倍さんが第1次内閣で総理を辞めたとき、私は鬱病の症状だと判断しました。体重が減少していたことや、目が涙目になっていたこと。その後の情報で安倍さんが“つらい”と漏らしていたことからも鬱の条件に合致しました。現在は痩せたように見えないし、涙目でもない。しかし、コロナ対策で緊張状態が続き、休日も会議。緊急事態宣言を1か月延長しなければならなかったことは強いストレスになる。こういうときに元気を失えば、リスクが高まる」

 心配なのはコロナで体調管理が難しいことだという。安倍首相の一番のストレス解消法は大好きな外遊とゴルフとされるが、いまはその外遊もゴルフもできない。

※週刊ポスト2020年5月22・29日号
https://www.news-postseven.com/archives/20200512_1561326.html