新型コロナウイルス拡大について政府に意見を述べる諮問委員会が5月4日、開かれ、西村康稔経済再生相は「全ての都道府県について5月31日まで緊急事態措置を延長することを諮問させていただきたい」と発言した。しかし、東京大学の児玉龍彦名誉教授は政府と専門家会議の対策は「0点」で「全国一律のステイホーム要請はナンセンスの極みで日本を滅ぼす」という。その理由とは?

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 公立病院や大手民間病院など、地域医療の中心となる「基幹病院」で次々と院内感染が起きています。手術を延期したり、新規患者の受け入れができなくなったりして機能停止状態に追い込まれています。

 3月下旬に院内感染が判明した慶応大学病院(東京都新宿区)では、4月に入って入院前の検査体制を強化しました。新型コロナウイルス以外の治療で入院予定の患者さんにPCR検査を実施したところ、約6%の人が陽性でした。患者さんばかりではなく、医療スタッフも家庭内感染して病院に持ち込んでしまうケースも少なくありません。

 院内感染を防ぐには、入院患者と外来患者、医療従事者の全員を検査する必要があります。大学の研究部門は、PCR検査の機器をかなりの台数を持っているはずなのです。文部科学省は日本中の大学でどれだけ機器があるのかを明らかにして、基幹病院を守るためにすべて投入しなければなりません。また、基幹病院のサンプリングを行うことで、その地域における市中感染の深刻さも検証できます。このことが最も優先されるべき課題です。

 さらに、軽症者に自宅待機を要請している間に家庭内感染の増加を招いてしまいました。熱があるなど体調の悪い人や、感染が心配な人は、ドライブスルー型で一気に検査できる体制を確立しなければなりません。

 日本財団が、東京・お台場の「船の科学館」などの敷地内で、感染者用の病床の整備を進めています。ドライブスルー型の検査もそこでできると思います。

 政府と専門家会議は、人と人との接触を8割削減するとか、外出の8割減を目指すなどと言っていますが、感染症対策としては0点です。中国の武漢が経験したことをまったく理解していません。感染症対策の基本は、感染集積地と非集積地とに分けて、感染集積地に医療資源をまとめて投入することなのです。

 中国の感染症研究の第一人者で鍾南山さんという医師がいます。2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の“火消し役”と言われた専門家のリーダーです。鍾さんは新型コロナでも1月18日に武漢を視察すると、地元自治体が明らかにしていない三つの問題点を指摘しました。第1に院内感染が多発していること、第2に医師十数人が感染していること、第3にPCR検査が1度も行われていないことでした。

 鍾さんは北京に戻ると、国家衛生健康委員会に、1千床の隔離病棟の建設と、武漢のロックダウン、医療従事者5万4千人の武漢への派遣を提言しました。

 日本に当てはめれば、比較的感染者の少ないところから、東京や大阪での感染拡大を制圧するために、自衛隊の医官なども含めて集中的に医療スタッフを送り込まなければならないということです。ですから、全国一律のステイホームの要請はナンセンスの極みで、日本を滅ぼします。米国のニューヨークも、イタリアのミラノもステイホームで失敗しています。

 日本の感染症対策は旧式のビッグデータ方式から抜け切れていませんが、いまはプレシジョン・メディシン(精密医療)に切り替える必要があります。診断も陽性者の追跡も精密なものにしていくのです。

 診断はPCR検査だけではなく、免疫の有無がわかる抗体検査もどんどん普及させなければならない。遺伝子工学の粋を集めた高性能な抗体検査機器が、世界各国で使われています。1台で月に3千〜6千件くらいの検査が可能で、日本でも少しずつ導入が始まっています。

 PCRに抗体検査を合わせると、確定診断率は90%を超えます。こうした取り組みは、すべて民間のお金で行われているのです。有効な対策が、政府や専門家会議、厚生労働省の側から出てこないことが重大な問題です。

 また、遺伝子工学と情報科学を駆使して、感染者を個別ごとにGPSで追跡できるシステムの導入が必要です。スマートフォンなどのGPS機能を通じた接触者追跡ですが、プライバシー保護のためにも匿名化が条件です。

2につづく

週刊朝日
2020.5.4 14:09
https://dot.asahi.com/wa/2020050300020.html