安倍首相の緊急事態宣言が「心に響いた」という人が、果たしているのかどうか。

 その一方で、新型コロナウイルス禍で授業開始を4月30日に延期した慶応大学の環境情報学部長・脇田玲氏が6日付で、新入生と在学生に宛てたメッセージがちょっとした話題になっている。


「家にいろ。自分と大切な人の命を守れ。SFC(湘南藤沢キャンパス)の教員はオンラインで最高の授業をする。以上」

 ネット上でも〈こういうのは短文の方が分かりやすいし、訴える〉〈安倍さんや小池さんのように、言葉が多いと若者は迷う〉〈単純明快、説得力あり〉などと好評だ。そういえば、共感を呼んでいるニュージーランド警察の自宅待機を呼びかけるツイートも短い。

「歴史上初めて、テレビの前で寝転がっているだけで人類を救える、ヘマするなよ」

 日本の警察が同じことを言ったら〈ふざけている〉なんて批判も起きそうだが、重苦しい雰囲気の中では、こんなウイットに富んだメッセージで気持ちが救われることもあるのではないか。

 いずれにせよ、安倍首相や小池都知事など日本の政治家から、短くても心に響くメッセージなんて、なかなか聞いたことがない。米心理学博士で医学博士の鈴木丈織氏は「短いからこそ心に響きやすい。CMのキャッチコピーがそうでしょう」とこう続ける。

「そもそも短いメッセージの方がインパクトがありますし、行間を読もうとする心理が働く。言葉の裏にある本質に迫ろうと勝手に“洞察”するので、消費者の印象に残るし、意識もする。結果、商品が売れるわけです。また短い言葉の方が、自分の言葉で本音を語っているように映る。だから心に響きやすい。逆に美辞麗句が並んだ長文は、直接語りかけられているようには感じません」

 かつて「自民党をぶっ壊す!」と吠えた小泉元首相は、“ワンフレーズ政治”などと批判もされたが……。

「是非はともかく、小泉さんのワンフレーズは耳目を集めた。多くの国民が支持して“小泉旋風”が起きたわけです。新型コロナが感染拡大する緊急事態の今こそ、ワンフレーズで強く訴えかけられる、自分の言葉で語れる政治家が現れないものでしょうか」(前出の鈴木丈織氏)

 まったくだ。

「後から突っ込まれることを極端に嫌う官僚は、あれもこれもと、内容を盛り込みがち。結局、焦点が定まらず、何が言いたいのか分からない官僚のペーパーを、政治家がダラダラと棒読みするだけでは、国民の心に響くわけもありません」(官邸番記者)

 これではとても“ワンチーム”にはなれそうにない。

日刊ゲンダイ
2020/04/09 06:00
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/271626/