政府が全戸に二枚ずつ配布する再利用可能な布マスクは再来週から約五千万世帯に郵送される。菅義偉(すがよしひで)官房長官は二日の記者会見で、予算額は一枚当たり二百円程度と明らかにした。送料などを合わせれば経費はマスク代の計二百億円を上回る計算だ。歓迎の声がある一方、家族の人数に足りないとの不満や費用対効果への疑問も出ている。 (妹尾聡太、上野実輝彦)

 安倍晋三首相は二日の衆院本会議で、布マスク配布について「急拡大するマスク需要の抑制を図り、国民の不安解消に少しでも資するよう速やかに取り組みたい」と強調した。

 配布の背景には、都市部で感染経路を追えない症例が相次ぎ、誰でも感染源になり得る危機感がある。政府の専門家会議は「無症状または軽症者が、気付かずに感染を広める事例が多く見られる」と指摘。東京都の小池百合子知事も「若い人は行動範囲が広く、無症状のまま行動することもある」と懸念する。

 全国で使い捨てマスクの品薄が続く中、布マスクの配布で国民の不満と不安を和らげたい思惑もある。

 例年、この時期の国内のマスク需要は月約五億枚。政府がメーカーに補助金を出し、四月には月七億枚の供給が可能になったが、需要に追いつかない。アイリスオーヤマ(仙台市)は中国の工場をフル稼働させ、月八千万枚のマスクを輸入しているが、自社の通販サイトですぐ完売に。政権幹部は「マスクはどこに行っているのか」と困惑する。

 布マスクの配布には与野党から批判がある。自民党の後藤田正純衆院議員はフェイスブックで「切迫した医療現場でなく、全戸に? 家にいたら、マスクいらんやろ?」と疑問を投げかけ、立憲民主党の松平浩一衆院議員は本会議で「思い付きの場当たり的対応の極みだ」と非難した。

 政府は当初、感染の疑いがある人を中心にマスク着用を求めたが、東京都などで急速なまん延の懸念が高まり、国民に積極的な着用を促す方針に転換。首相は三月三十一日から官邸の会議で布マスクを着けるようになった。

東京新聞
2020年4月3日 朝刊
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/202004/CK2020040302000147.html
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