東京五輪・パラリンピックが一年程度延期されることが決まり、安倍晋三首相にとっては最大の「レガシー(政治的遺産)」実現が先送りされることになった。首相は自ら五輪誘致を主導し、政権浮揚にも利用してきた。今度は一転、史上初めて延期される五輪を無事に開催・運営できるかどうか、開催国の首脳として手腕を問われる。 (妹尾聡太)

 「二〇二二年がベストだと考える人もいるかもしれないが、そうなれば、もはや二〇年の東京大会ではなくなる」

 首相は二十四日夜のバッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長との電話協議で、一年程度の延期を提案する理由をこう説明した。同席した橋本聖子五輪相が記者団に明らかにした。首相は来年九月まで自民党総裁任期を残しており、延期された五輪も首相の在任中に開かれる。

 首相は誘致段階から五輪に絡めて政治的な発信をしてきた。一三年九月のIOC総会での招致演説では、福島第一原発事故について「状況はコントロールされている」と言明。汚染水が海に流出を続けていたにもかかわらず、実績として国際社会に訴えた。

 一六年のリオデジャネイロ五輪閉会式には、人気ゲームのキャラクター姿で登場し、東京五輪の成功に向けて先頭に立つ姿勢をアピール。直接関係のない改憲に関しても「二〇年を新しい憲法が施行される年にしたい」と一七年に主張し、五輪に関連付けて目標を定めた。首相の経済政策「アベノミクス」も五輪による好景気を当て込んできた。

 首相は「人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証しとして完全な形で東京五輪・パラリンピックを開催するため、IOCと緊密に連携していく」と記者団に強調した。だが、これまで政権にとっていいことずくめだった五輪の開催に向け、難しいかじ取りを迫られる局面になった。

 仮に一年以内に新型コロナ感染が終息しなければ、五輪を「完全な形」では開催できなくなる。中止や再延期の恐れもある。自民党の二階俊博幹事長は二十四日の記者会見で「まさに開催国として大変難しい局面にある」と語った。

◆首相発言要旨

 安倍晋三首相が24日夜、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話協議後、記者団に語った発言の主な内容は次の通り。

 バッハ会長と、あらためて東京五輪・パラリンピックの中止はないことを確認した。その上で、開催国・日本として、世界のアスリートが最高のコンディションでプレーでき、観客にとって安全で安心な大会とするために、おおむね1年程度延期することを軸として検討していただけないかと提案し、バッハ会長から100パーセント同意するとの答えをいただいた。そして遅くとも2021年夏までに東京五輪・パラリンピックを開催することで合意した。

 今後、人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証しとして完全な形で東京五輪・パラリンピックを開催するために、バッハ会長と緊密に連携していくことで一致した。日本は開催国としての責任を果たしていく。

 現下の感染症の広がりを見る中、年内の五輪開催は難しく、(延期幅を)1年程度にした。遅くとも21年夏までにすることで合意した。その目標の上で、会場等の対応について調整していく。

東京新聞
2020年3月25日 朝刊
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/202003/CK2020032502000119.html
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