ヘイトスピーチに罰則を設ける川崎市条例への賛同が多数を占めたパブリックコメント(意見公募)の結果に、在日コリアン1世のハルモニ(おばあさん)たちから喜びの声が上がった。「これで安心して過ごせる」。市に届いた過去最多の約1万8千通にはハルモニたちが手書きでつづったものも含まれている。

 気心の知れた同胞が毎週火曜に集い、朝鮮の民謡や食事を楽しむ高齢者交流サークル「トラヂの会」。主宰する社会福祉法人青丘社の職員が20日、前日に発表されたパブコメの結果概要を伝えると、「良かった」という喜びとともに拍手が起きた。川崎区に暮らして50年近くになる石日分(ソク・イルブン)さん(89)は「ヘイトをなくす先進的な条例はこれで必ずできるはず。川崎に住んで本当に良かった」と安堵(あんど)の笑みを浮かべた。

 差別と貧困で学ぶ機会を持ち得なかったハルモニたちが通う識字学級で、石さんと一緒にペンを執った李栄子(イ・ヨンジャ)さん(90)は市への意見をこう記した。

 〈私のからだが元気なら、ヘイトスピーチをやめてくださいと、足をひっぱっても、服をひっぱっても、私のからだがたおれても、いいつづけたい〉〈川崎市が条例をつくり、私の気もちをかわりに伝えてくれているようで、ありがとうございます〉

 「反対が多いという結果にならなくて本当に良かった」。文字を教えながら在日1世の苦難と再生の歩みに触れてきた識字学級の共同学習者、鈴木宏子さん(81)=宮前区=は「ハルモニたちが意見を示せたのも、学び直しを通して差別で踏みつけられてきた自らの価値を感じられるようになったから。賛成が上回ったことで意味があったとまた思えたはず」と話す。その姿に触発されて意見を送った日本人の知人も多かったといい、「共感の広がりは全会一致での条例制定へ後押しになるはずだ」と期待を込めた。

神奈川新聞
2019年08月21日 05:00
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