安倍晋三首相が、夏の参院選と衆院選を同時に行う「同日選」を見送った。選挙情勢調査の堅調が伝えられ、内閣支持率は比較的高い数字を維持していたが、衆院との相乗効果に頼らずに参院単独で選挙戦に臨む道を選択した。あまり報じられていないが、最終局面で首相の判断材料となったのは、米中貿易摩擦が激化するリスクだったのだという。異例の日米首脳連続会談で米中間の早期合意はありえないと受け止めた首相は、世界経済が波乱含みとなる中での同日選はリスクが大きいと見極めたのだろう。

 裏を返せばこれは、自身の求心力を維持するための「解散カード」と、衆院で憲法改正に必要な3分の2の議席を温存したことを意味する。参院でも3分の2を維持できれば、首相が残り任期を見据えながら、改憲を含む残された課題の実現に邁進すると見て間違いはない。すると選挙後の新体制と政治日程は自ずと見えてくる。安倍政権の継続を織り込んだ永田町の関心は早くも人事と衆院解散の時期に加え、「首相連続4選」の可否と「ポスト安倍」の行方に向かいだした。 (共同通信=内田恭司)

▽増税は予定通り

 安倍首相が2019年夏の参院選に合わせ、衆院を解散して総選挙も同日に実施する衆参同日選を狙うのではないかとの臆測が流れ始めたのは昨年10月ごろだった。ロシアとの北方領土問題で成果を挙げて国民の信を問うのではないかというものだった。

 しかし、公明党の山口那津男代表が同日選を強くけん制し、11月下旬の安倍首相と山口氏との会談を境に風は静まったかに思われた。会談では、同日選さえ見送れば、公明党は参院選での自民党勝利に全面協力し、改憲論議の推進も妨げないことで双方が手を打ったのではないかとみられていた。

 年明けの1月22日にモスクワで行われた日ロ首脳会談は目立った成果が得られず、領土交渉が夏に向けて進む可能性が急速にしぼむ中、安倍首相は2月上旬、自民党の二階俊博幹事長と会談した。党選対関係者によると、首相は「同日選は考えていない」と伝えたのだという。

 「解散カードがないと、首相は参院選後も求心力を保てない。だから同日選はない」。会談を踏まえたこの選対関係者の読みだった。

 風向きが変わったのは、4月末に安倍首相の私邸を訪れた盟友の麻生太郎副総理兼財務相が同日選を強く進言したと伝わってからだ。萩生田光一自民党幹事長代行ら首相周辺による観測気球的な発言も相次ぎ、解散風はにわかに勢いを増していった。

 だが、解散の大義名分が明確にならなかった。10月に予定する消費税率の10%への引き上げを見送ることで信を問うべきだとの声はあった。しかし、5月20日に出た最新の四半期国内総生産(GDP)速報値は事前の予想を良い意味で裏切ってプラスとなった。消費税増税は予定通り実施する流れがほぼ固まった。

2につづく

47NEWS
2019/6/29 07:00 (JST)
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