安倍晋三首相は、令和初の国賓としてトランプ大統領を迎え、ゴルフに相撲と歓待を繰り返したが、申し開きの出来ない失策もある。


 米軍に絡む「辺野古」と「馬毛島」である。両方、大幅遅延で約束が果たせない。

 市中にあって危険な普天間飛行場に関し、米国と移設合意に達したのは、1996年4月、橋本龍太郎首相時代だった。「5年から7年の全面返還」のはずが、反対運動に加え、民主党政権下の「最低でも県外」といった鳩山由紀夫首相発言などもあって迷走。昨年、埋め立て工事が本格化したものの、県民投票、県知事選、衆院沖縄3区補選の3回の投票で、「辺野古移設反対」の民意は明らかだ。

 一方、鹿児島県種子島の西方12キロに浮かぶ無人島の馬毛島を買収、「タッチ&ゴー」と呼ばれる米空母艦載機の陸上離着陸訓練地(FCLP)にするという計画も10年越しだが、地権者のタストン・エアポートが納得しない。交渉の前面に立っていた防衛省では力不足だと、菅義偉官房長官が采配を振り、今年1月、一度は買収価格160億円で仮契約を結んだものの、タストン社で内紛が発生、社長に返り咲いた立石勲氏が、「安過ぎる」と約束をほごにして振り出しに戻った。

 辺野古と馬毛島――。沖縄基地負担軽減担当相でもある菅氏の責任。「外交デビュー」といわれた5月上旬の訪米では、シャナハン国防長官代行に大幅遅延に理解を求めた。が、そもそも辺野古に“執着”する必要があるのか。玉城デニー沖縄県知事は東京新聞の単独インタビューに応じ、「辺野古が唯一の解決策という政府の呪文に国民がだまされる必要はない」(5月22日)と語っている。

 では、一石二鳥の策として馬毛島はどうか。島には南北4200メートル、東西2400メートルの“荒滑走路”がある。16年5月には、地元出身の下地幹郎おおさか維新の会政調会長(当時)が、「普天間基地の馬毛島早期移設」を訴えたことがある。160億円では納得しない立石氏も、たとえば当時の「5年20億円で賃貸後に売却」という条件がそのまま生きるなら、「選択肢のひとつでありがたい話」と今、前向きな姿勢を見せる。

 辺野古は、マヨネーズ並みの軟弱地盤で地盤改良が必須。それも、国内船が作業する限界値を超えており、工費が膨らみ工期が長くなる。沖縄県は2兆5000億円で13年と試算した。

 政府筋には「防衛省発表は2400億円。いくら何でも盛り過ぎ」という反論はあるものの、防衛省の数倍に達する予想は、誰もが否定しない。

 沖縄の民意を無視し、普天間の早期移設という当初の目的を忘れたような工事を、延々と続ける意味があるのか。馬毛島を含め「呪文」にとらわれることなく考えるべきだ。

日刊ゲンダイ
伊藤博敏
19/05/28 06:00
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