■接待外交の裏で国会では重大法案が審議中

 隠したいのは日米の貿易交渉の中身だけではない。国内では、国民の生活に深く関わる法案がまもなく成立しようとしている。

 参院では現在、国民の共有財産である国有林で、最長50年にわたって大規模に木材を伐採・販売する権利を民間業者に与える国有林野管理経営法の改正案が審議されている。

 12年に第2次安倍政権が発足してから、政府は農業や漁業の第一次産業や空港や水道など公共インフラを「民間開放」する政策を進めてきた。今回の法改正も、その一連の流れに位置づけられている。最長50年の伐採期間は世界的にも例がないことから、法案に反対する林業関係者からは「国土切り売りだ」との批判が起きている。

 国会の審議も、異例の展開をたどった。

 衆院農水委員会の参考人質疑では、東京農工大の土屋俊幸教授が野党推薦の参考人として国会で答弁した。土屋教授は林野庁の政策を外部有識者で審議する林政審議会の会長で、政治的中立性が求められる立場だ。にもかかわらず、野党推薦の参考人として国会で話すことは「異例なこと」(林野庁関係者)だった。

 土屋教授は、参考人質疑でこのように話した。

「少し批判的な言い方になるのをご承知おかれたいのですが、(国有林法改正案の立案過程は)少し唐突であったように私は感じています」

 土屋教授の指摘通り、法案は林野庁ではなく官邸主導で作られた。昨年5月、政府の未来投資会議(議長・安倍晋三首相)で、民間議員の竹中平蔵東洋大教授が、国有林事業の運営権を民間業者に委託する「コンセッション方式」の導入を提案。日本商工会議所の三村明夫会頭も「林業政策を産業政策の方向に大きく転換する必要がある」と後押しした。竹中氏は、バイオマス発電事業を手がけるオリックスの社外取締役で、人材派遣大手のパソナ会長も務めている。

 その頃、土屋教授が林政審議会で話したことは、もっと直接的だった。「私はクビを切られても全く問題ない」と前置きしたうえで、こう話している。

「未来投資会議というのが官邸にあって、その委員の竹中平蔵氏が、何回にもわたって国有林の改革について主張されてきたというのは、ホームページ等を見ればわかることです。(中略)ですが、こと、森林や林業や山村については、(竹中氏は)やはりいわゆる専門の方ではないと私は思います」

 竹中氏をはじめ、官邸の意向を受けて作られたこの法案は、林業の専門家から激しく批判されている。

 今月15日には、研究者や林業関係者らが「国有林野管理経営法改正案を考える会」を設立、法案に反対する声明を発表した。同会事務局の上垣喜寛氏は言う。

「林業は『伐る・植える・育てる』の循環によって経営が成り立つのですが、今回の法案は『伐る』ことだけに重点が置かれています。国有林にある木をすべて伐ってしまう『皆伐』が広がるのは確実です。しかも、木を伐った後の再造林(木を植えること)は伐採業者に義務づけられておらず、再造林費用はすべて国民の負担。これでは、伐採業者に国民の共有財産である国有林が売り渡されるだけです」

 吉川貴盛農相は、国有林の入札の際に再造林を同時に行うことを申し入れることで「確実に再造林される」と説明するが、野党は「『申し入れ』ではなく『義務』にすべきだ」と反発している。

 日本では戦後に植林された木が成長して、伐採量を増やす政策が進められている。一方で、皆伐や過度な間伐で木を伐りすぎたために山が荒れ、再造林に失敗した山も多い。林野庁の森林・林業白書によると、伐採された山の面積の約6〜7割が、再造林されないままとなっている。

3につづく