安倍首相が唐突に打ち出した「日朝首脳会談の無条件実施」を巡る波紋は大きくなる一方だ。17日の衆院拉致問題特別委員会では菅官房長官が「対話のための対話であってはならない。政府として明快だ」と答弁。拉致問題や核開発などを巡り、一定の成果を目指す方針に変わりはないと主張した。折しも官邸周辺からは「9月訪朝」「複数帰国」という情報が流れ始めているという。

「日朝首脳会談を巡っては、GW前に7月7日に実施という日程が永田町で流れていました。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長とのサプライズ会談で支持率を上げ、一気にダブル選になだれ込むシナリオです。2度目の小泉訪朝以来15年ぶり、安倍―金正恩としては初めてとなる日朝会談は両トップの顔合わせ。秋口にも2回目の会談を実施し、拉致問題について協議するという筋書きでした。それがここにきて、官邸周辺から〈安倍首相が9月に訪朝し、2〜3人の拉致被害者が帰国する〉という情報が流れ始めています」(官邸事情通)

 日本政府が認定している拉致被害者は、2002年に帰国した5人を含む17人。象徴的存在の横田めぐみさん(当時13)をはじめ、久米裕さん(同52)、松本京子さん(同29)、田中実さん(同28)、田口八重子さん(同22)、市川修一さん(同23)、増元るみ子さん(同24)、曽我ミヨシさん(同46)、石岡亨さん(同22)、松木薫さん(同26)、原敕晁さん(同43)、有本恵子さん(同23)がいまだ故郷の土を踏めずにいる。警察庁が北朝鮮による拉致の可能性を排除できないとする「特定失踪者」は883人にのぼる。


 拉致問題に詳しい国際ジャーナリストの太刀川正樹氏は言う。

「これまで安倍首相は、〈対話のための対話では意味がない〉〈最大限の圧力をかけ続ける〉などと声高に訴え、対北強硬路線の急先鋒に立ってきた。百八十度の方針転換で対話の機運が醸成されるのであれば、それに越したことはありませんが、コトがそう簡単に運ぶでしょうか。はなはだ疑問です。拉致被害者についても、帰国を実現できるのか。14年のストックホルム合意を交わす前に、田中実さんと特定失踪者の金田龍光さん(同26)が妻子とともに平壌で暮らしているとの情報が政府に伝わっていたと報じられている。松本京子さんについても類似する情報があります」

■「国民大集会」でどう説明するのか

 一方、北朝鮮は「拉致問題は解決済み」とするスタンスを崩していない。

 国連人権理事会の作業部会が計262項目の勧告を採択したが、北朝鮮の韓大成駐ジュネーブ国際機関代表部大使は「拉致問題に関する勧告を拒否する」と演説をブッて反発した。
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 拉致被害者の「家族会」と「救う会」などによる恒例の「国民大集会」が19日に開かれ、安倍首相も出席予定だ。安倍首相は方針の大転換をどう説明するのか。日朝会談実施の見通しをキッチリ示せるのか。昨年は参加者から「もう帰るのか!」「もっといろよ!」という罵声を浴びせられていたが、今年はそれ以上の修羅場となる可能性がある。

日刊ゲンダイ
19/05/18 15:00
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/254158/