下関北九州道路(下北道路)を巡る塚田一郎元国土交通副大臣の「忖度(そんたく)」発言で、政府が本年度から直轄調査を行うと判断した正当性の「立証」に追われている。疑惑がくすぶり続ければ夏の参院選で野党の攻撃材料にされかねないほか、将来的に事業化する際に火種が再燃する恐れもあるためだ。地元も必要性を裏付ける理論武装に躍起で、利益誘導のイメージダウンを食い止めようと懸命だ。

 北九州市と山口県下関市を結ぶ下北道路は、国が1998年の第5次全国総合開発計画に掲げた6カ所の「海峡横断プロジェクト」の一つ。国は2008年、財政難を理由に6カ所とも凍結したが、下北道路だけ本年度、11年ぶりに直轄調査を復活させ、4千万円の予算を付けた。

 「関門トンネルや関門橋のバイパス的機能を果たし、他の五つとは性格が違う」。石井啓一国交相は塚田氏の「忖度」発言後、下北道路だけ復活させた理由を繰り返し強調する。

 ただ、国会審議などでは、全国108の地域高規格道路の候補のうち、国が本年度、直轄調査に引き上げたのは下北道路のみであることが判明した。16年に石井氏に出された早期建設の要望書に、安倍晋三首相の名前があることも明らかになった。

 今のところ「忖度」を裏付ける証拠はなく、野党は攻め手を欠く。だが今回は森友、加計(かけ)学園問題とは異なり、政務三役が自ら「忖度」を口走った経緯がある。行政がゆがめられることはなかったのか、疑惑を晴らす必要性に迫られているのは政府側だ。

 「直轄調査は年1カ所ペースでやっている。108のうち下北道路だけ調査して、他は手を付けていない状況ではない」「首相の要望がきっかけになったことはない」。石井氏は直轄調査や予算配分の正当性を主張しつつ、決定過程の検証は拒む。

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 地元も下北道路が「色眼鏡」で見られかねないことに神経質になっている。北九州市の北橋健治市長は忖度発言を「残念で痛恨の極みだ」と批判する。

 関門トンネルは1958年、関門橋は73年開通で老朽化。特にトンネルは片側1車線の対面通行で、事故や落下物による通行止めが年200回にも及ぶ。関係自治体は災害に備え、本州と九州を結ぶ3本目の大動脈の必要性を訴え「直轄調査は忖度ではなく民意だ」と不快感を示す。

もっとも、地元以外の野党議員からは「災害を持ち出せば、全国どこでも事情は同じようなもの」と冷ややかな声も。「忖度」疑惑を払拭(ふっしょく)する理論武装として説得力を欠く印象は否めない。

 事業化に向けた課題も改めて浮き彫りになった。関連道路は地元負担を伴うが、北九州市は海峡部分から既存道路にどうつなげるかを「今後の検討課題」としたまま。海峡部分には活断層の存在も指摘される。

 下北道路の事業規模は1600億〜1800億円に上るとみられる。世論の動向次第では事業化の行方は不透明になりかねず、その必要性を国民にどう説明するか、政府と地元になお重い課題が横たわる。

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下関北九州道路を巡る「忖度」発言

 塚田一郎元国土交通副大臣が4月1日、福岡県知事選の自民推薦候補の集会で、国交省が本年度、下関北九州道路の直轄調査を決めた経緯について、山口県下関市が選挙区の安倍晋三首相と、福岡県が地元の麻生太郎副総理兼財務相の意向を「私が忖度した」と発言した。西日本新聞などが報道すると「事実ではない」と発言を撤回。4月5日に辞任した。

=2019/05/11付 西日本新聞朝刊=
2019年05月11日 06時00分
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/politics/article/509160/