政府が2018年1月から毎月勤労統計の手法を変えたことで、賃金の伸び率が実際より高く出た。

 15年10月に麻生太郎副総理兼財務相が経済財政諮問会議で勤労統計の調査方法を見直すよう要望した。首相秘書官は厚生労働省に「実態を適切に表すための改善の可能性」などの「問題意識」を伝えた。

 「賃金の伸び率を高くするために変更した」とは現時点では断定できない。しかし官邸主導により結果的には、賃金伸び率が上振れし、水増しされたことは間違いない。

統計が信用されない

 賃金の伸び率が上振れしたのは、調査対象事業所を一部入れ替えた際に大きなずれが生じたまま、前年と比較したためだ。このため、総務 省統計委員会は入れ替わらない事業所のみを抽出した、公表値よりも実態に近い、「参考値」を重視すべきだとしている。

 ところが政府はこの参考値について名目賃金のみ公表し、実質賃金の参考値を公表しない。実質賃金は政策判断に重要な影響をあたえる指標だ。そのデータを公表しないというのはまったく理解できない。

 かつて旧ソ連などの経済統計は信用できないと笑っていたが、ひとごとではなくなった。今や日本の賃金の統計は世界の笑いものになっている。安倍晋三首相は裸の王様だ。周囲にこのおかしさを指摘する人がいないのだろう。

国民生活の実感を示す実質賃金

 厚生労働省がまとめた18年1〜12月の実質賃金は6カ月が前年同月比マイナスとなっているのに対し、野党が独自試算した参考値だとマイナスは9カ月になる。根本匠厚労相は国会でこの計算をおおむね認めた。

 ならば公表になんの障害があるのか。百歩譲って実態より高い賃金の伸び率を公表したことは意図的でなかったとしても、実態に近い、低い「参考値」を公表しないのは明らかな「アベノミクス偽装」だ。統一地方選挙と参院選があるから不都合な数値を公表したくないのだとしか思えない。

 実質賃金の伸び率というのは、国民生活の実感を表す一番基本的な指標だ。上振れした数値を出し続けているのは非常に悪質だ。10月には消費税率引き上げが予定されている。誤った景気判断をもとに消費税率を引き上げれば大変なことになる。

失敗を認めたくない政権

 アベノミクスは物価を上げれば賃金も上がるだろうという考え方だ。ところが物価は上がっているが、賃金上昇が追いつかず、実質賃金が下がって国民生活が苦しくなっている。アベノミクスは失敗したと言わざるを得ない。

 18年の実質賃金のデータは、こうしたアベノミクスの失敗を示す決定的な証拠になる。だから、出すに出せない。もし参院選が終わった後に「本当のデータ」を出すならば、国民をだましたことになる。

毎日新聞
2019年4月27日
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20190426/pol/00m/010/001000c