いま、国と地方の長期債務は1100兆円を超え、GDP比で先進国最悪となっている。もし国債価格が暴落するような事態になったらどうなるか。かつてのような大増税や超インフレに襲われてもおかしくない。

 しかし、日銀が人為的にインフレを起こせば景気が良くなると主張する「リフレ派」の学者や、積極的な財政出動を主張する財政拡張論者たちは「いまは日本経済が以前よりずっと強い。国民の資産も豊かで、財政破綻することなどない」と主張している。果たして、その考え方は正しいのか?

 実は、戦前の日本もまったく同じように強気の主張をしながら、国民に国債を購入するように勧めて、国の借金を重ねていた。

 たとえば、対米開戦前夜の1941年10月、大政翼賛会は全国の隣組に宣伝読本『戦費と国債』(42ページ)を150万部配った。現存するその冊子をひもとくと、こんな「Q&A」が紹介されている。

(問)国債がこんなに激増して財政が破綻(はたん)する心配はないか。

(答)国債がたくさん増えても全部国民が消化する限り、少しも心配は無いのです。国債は国家の借金、つまり国民全体の借金ですが、同時に国民がその貸し手でありますから、国が利子を支払ってもその金が国の外に出て行く訳ではなく国内で広く国民の懐に入っていくのです。(中略)従って相当多額の国債を発行しても、経済の基礎がゆらぐような心配は全然無いのであります。

 新刊『日本銀行「失敗の本質」』の著者で、朝日新聞編集委員の原真人氏は、この冊子を読んだ感想をこう説明する。

「この問答を読んで驚くのは、現代の財政拡張論者たちの主張と見まがうほど、よく似ていることです。現代でも、これほど政府の借金が膨張すると、国債の信用問題になるはずなのですが、いまはそれほどでもありません。リフレ派や財政出動論者たちはしばしば『国債は国民資産でもあり、増えても問題ない』と説明します。

安倍政権もそこに乗って、財政悪化を軽く見ているように思います。だからなのか、国民全体の危機意識も弱く、財政悪化に対して、世の中全体が無感覚になりつつあるように思えます。

 しかし、戦時国債の結末は歴史が示す通りで、敗戦直後に重い財産税が課されたり、超インフレが起きたりして、国債は紙くず同然になりました。

 もし、敗戦にならなければ国債は紙くずにならなかったかといえば、そんなことはないでしょう。戦前も現代も、政府の借金が著しくふくらむ中で、財政の耐久力がとてつもなく弱っている可能性は十分あります」(原氏、以下同)

 いまの日本の財政がどのくらいひどいかと言えば、「敗戦時並み」だ。国の経済力を示す国内総生産(GDP)に対する政府債務の比率が、それをはっきりと物語っている。国際的には100%超なら財政悪化と見なされるこの比率が、日本は2019年度末に220%に達すると見込まれている。ちなみに、1945年の敗戦時の比率は正確な統計は残されていないが、優に200%を超えていた。

 戦後、国民は生活に困窮した。敗戦による国土荒廃と経済の混乱のせいだけではない。戦前・戦中に軍事費をまかなうため、政府が借金(国債発行)を重ねた末の、財政破綻の結果でもあった。

 日本国債も通貨円も、いまは国際金融市場で「安全資産」とされている。だが、未来永劫そうだという保証はない。

「このところ債券市場で新発国債の取引が成立せず、値がつかないことが頻発しています。日銀が大量の国債を買い占めてしまい、民間同士の取引が低調になっているためです。日銀が国債を買い支えているから、国債価格の急落、つまり長期金利の急上昇というかたちで市場の警報装置は鳴らなくなっている。ただ、この取引不成立も、一種の“警報”と考えるべきではないかと思います。

2につづく

NEWSポストセブン
2019年04月16日 16:00
https://blogos.com/article/371375/