航空自衛隊三沢基地(青森県)所属の米国製最新鋭ステルス戦闘機F35Aが、夜間訓練中に青森県沖の太平洋上で墜落してから十六日で一週間。空自や海上自衛隊などが現場周辺で操縦者や機体の捜索を続けている。機体は米国の対外有償軍事援助(FMS)購入で機密性が高く、原因究明に米側の協力が得られるかが課題だが、その前に機体の回収にも相当の時間がかかりそうだ。一方で防衛省は同機の大量調達を続ける方針で、早期の飛行再開に踏み切りたい姿勢ものぞく。 (原昌志)

 「ノック・イット・オフ」(訓練中止)。九日午後七時二十六分ごろ。事故機を操縦していた細見彰里(あきのり)三等空佐(41)が通信を発した約一分後、機影は三沢基地の警戒管制レーダーから消えた。三十分ほど前に四機編隊の編隊長・一番機として三沢基地を離陸、二機ずつに分かれて対戦闘機の戦闘訓練をしている最中だった。今回の訓練では、レーダーに映りにくい「ステルス性能」を落として行っており、細見三佐は攻撃側の役割だったという。

 空自事故調査委員会は、事実関係が確定できるまで詳細は明らかにしないが、夜間の戦闘機同士の訓練は相当の高度で行うのが一般的とされる。通信の発信時間から機影消失までの時間を踏まえると、上空で突発的な事象が起きて制御不能になったまま急激に降下、墜落した可能性が浮かぶ。

 「操縦者の聴取と機体の解析がなければ、しっかりした原因究明は難しい」と空自幹部。ただ十五日までに回収できたのは尾翼の一部のみ。海中に沈んだとみられる機体の引き揚げは難航する様相だ。

 空自によると、機影が消失した地点は分かっているが、実際の墜落地点は特定されていない。また付近の海底は水深約千五百メートルで、平たんではなく数百メートルの高低差がある場所もあるという。海中は艦艇の音波探知装置(ソナー)やカメラで捜しているが「見つけるのは簡単ではない」と海自関係者。海流で流されることもある。二〇一七年八月に海自ヘリが青森・竜飛崎沖で墜落水没した事故は、墜落地点がほぼ絞れていたにもかかわらず、発見まで二カ月近くかかった。

 一方、政府はF35をSTVOL(短距離離陸・垂直着陸)機のB型を含めて計百四十七機、導入する方針。事故により地元では安全性への懸念が強まるが、岩屋毅防衛相は十二日の会見で「現時点で取得計画を変更する考えはない」と言明。部隊の残る十二機は事故後、飛行停止しているが、「あまり長く飛ばないと練度が下がってしまう。点検と教育を徹底して飛行再開せざるを得ないだろう」(防衛省幹部)との声も出る。

 F35は、二〇一八年に米会計検査院が九百六十六件の不具合などを指摘、改善を繰り返している。事故原因と再発防止対策がはっきりしないまま、見切りで飛行再開に踏み切れば、不信や反発が高まるのは必至だ。

 戦闘機パイロットだった織田邦男元空将は「完全な原因解明前に飛行再開することは一般的にあるが、パイロットの生命がかかっており、事故につながる可能性をすべてつぶす必要がある。また地元の理解を得るためにも、慎重に進めなくてはならない」と指摘している。

東京新聞
2019年4月16日 朝刊
https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201904/CK2019041602000128.html