失言を繰り返した大臣は、東日本大震災の被災地を軽んじて立場を失った。「復興以上に大事なのが議員」と発言し、10日に辞表を提出した桜田義孝五輪相。「政治家として論外」「大事な時期なのに」。被災地は怒り、2020年東京五輪・パラリンピックの関係者は失望をあらわにした。

「政府は東京五輪を被災地の復興と結びつけてPRしてきたが、そうではないことが分かった」。福島県大熊町の佐藤順さん(70)は突き放す。東京電力福島第1原子力発電所事故で同県会津若松市に避難。週1回、80代後半の母親を連れて自宅に戻り、庭木などを手入れしながら帰還の時期を探ってきた。「結局、被災地のことをそれほど深く考えていないことがはっきりした」とあきれ果てた。

宮城県内で与党系の市議を務める50代男性は「政治家としては論外な発言」と吐き捨てる。被災地と東京の温度差が気になるといい、「震災の風化を感じざるを得ない。次の大臣には被災地への理解がある人に就いてほしい」と話した。

「来年にパラリンピック開催を控えた大事な時期なのに」。日本身体障害者アーチェリー連盟の橋本和典会長(72)も憤る。就任後に五輪憲章を「読んでいない」と発言し、競泳の池江璃花子選手の白血病公表に「がっかりした」と述べた桜田氏。「スポーツに理解がない人だなと感じていた」と打ち明け、「辞任は仕方ない」と切り捨てた。

別のパラ競技団体の男性幹部は「五輪・パラ全体の印象が下がるのではないかと心配していた」と語り、辞任は遅すぎたとの見方を示した。

桜田氏を事務方として支えてきた内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局。一報を聞いた男性職員は「正直、言葉がない」と肩を落とす。東京五輪が来年に迫るなか、これまでも失言が目立っていた桜田氏に「ついに辞任にまでなってしまったか……」とため息をついた。

東京都のオリンピック・パラリンピック準備局では10日深夜、残業中だった職員らが廊下で「信じられないな」と小声でささやき合った。40代の男性職員は「結構ひどい失言」と非難。「僕らは真面目に仕事するだけ」とこぼした。

批判の声は都議会からも。五輪運営に携わる自民党の男性都議は「明らかに思慮を欠いた発言。辞めるしかない」。公明党の男性都議も「五輪まで500日を切った大切な時期になぜあんな発言をするのか。安倍1強の中でおごりがあったのではないか」と話した。

日本経済新聞
2019年4月10日 23:03
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43595670Q9A410C1CC1000/