数々の失言を重ねてきた桜田義孝五輪担当相が10日、ついに辞任に追い込まれた。塚田一郎元副国土交通相の下関北九州道路建設計画を巡る「忖度(そんたく)」発言が物議を醸す中、新たな懸案を抱え込んだ安倍政権。閣僚の不祥事が相次ぎ、参院選で自民党が惨敗した2007年を思わせる状況になりつつある。

 桜田氏の辞任に、自民党の林芳正前文部科学相は10日夜、BSフジの番組で「12年前を思い出してしまう。しっかりと気を引き締めていかなければいけない」と語った。安倍晋三首相は自らの退陣につながった07年参院選の再現を避けようと懸命になっていただけに、桜田氏の失言は大きな痛手だ。新元号と新紙幣の相次ぐ発表による政権浮揚効果は完全に吹き飛んだ。

 桜田氏はこれまでも閣僚としての資質が疑問視されてきた。それでも首相がかばい続けたのは、昨年10月の内閣改造で派閥均衡に配慮したからだ。桜田氏は首相を支える二階俊博・自民党幹事長が率いる二階派に所属。桜田氏を切れば「アリの一穴」になって政権が失速しかねないという懸念が首相にはあった。自民党の幹事長経験者は「そもそも閣僚に起用したのがいけなかった」と首相の人事を批判した。

しかし、首相は第2次内閣発足後、精力的に東日本大震災の被災地に入ってきただけに、今回の失言は看過できなかった。17年4月には東日本大震災が「東北だったから良かった」と発言した今村雅弘復興相(当時)を即座に辞任させた経緯があり、桜田氏の発言から2時間足らずのスピード辞任は安倍政権の危機感を物語る。

 桜田氏の発言直後、菅義偉官房長官から「もうかばい切れない」と通告された二階派幹部は白旗を上げるしかなかった。田村憲久元厚生労働相は「安倍内閣は震災復興が一丁目一番地。そういう発言が出たのは残念だ」と記者団に語った。

 しかし、野党は更迭が遅すぎたと見ており、首相の判断が批判を浴びるのは確実だ。公明党の西田実仁参院幹事長は10日夜、「復興で大変な生活を余儀なくされている方々を傷つけた。あってはならない発言。辞任は当然だ」と突き放した。

 統一地方選の前半戦で行われた道府県議選を自民党は無難に乗り切った。しかし、塚田元副国交相の辞任に続く桜田氏の失態で、14日から始まる後半戦は潮目が変わらないとも限らない。

 自民党内では首相官邸や党執行部への不満が広がっており、ある閣僚経験者は「緩み切っている。安倍政権のおごりだ」と不満を隠さない。07年は統一地方選後に安倍内閣の支持率が急落した。自民党内では「政権が危うくなれば、衆参同日選もあり得る」という見方がにわかに浮上し始めた。【鈴木一生、竹内望】

2につづく

毎日新聞
2019年4月10日 23時32分
https://mainichi.jp/articles/20190410/k00/00m/010/278000c