NHKは9日、元専務理事の板野裕爾(ゆうじ)NHKエンタープライズ(NEP)社長(65)を専務理事に復帰させる人事を発表した。同日の経営委員会で同意を得た。複数のNHK関係者は、政権に太いパイプを持つとされる板野氏の復帰は「首相官邸の意向」と明かし、NHKと政権との距離を危惧する声が上がっている。

 板野氏は、籾井勝人(もみいかつと)前会長時代の2014年4月〜16年4月に専務理事(放送総局長)を務めた。関係者によると、政権の意向を背景に「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターの降板を主導するなど、放送番組への介入を繰り返したとされる。記者団の取材に石原進経営委員長(JR九州相談役)は、板野氏について「(専務理事に)適任ではとの声もあった」と説明。経営委では、石原氏を含む委員12人のうち10人が賛成し、佐藤友美子、小林いずみの両委員が棄権したという。

 関係者は「NHK内で板野氏を推す声はなかった」と明かす。別の関係者によると、板野氏への懸念は上田良一会長も承知していたが、官邸の強い意向で今回の人事を認めたという。野党のある国会議員は「安倍政権はマスコミへの締め付けを強めたいのでは」と危惧する。

 ほかに荒木裕志(あらきひろし)理事が専務理事に、正籬聡(まさがきさとる)広報局長が理事に昇格。任命は25日付。坂本忠宣(さかもとただのぶ)専務理事、菅康弘(かんやすひろ)理事は24日付で退任する。【屋代尚則、井上知大】

「視聴者から見放されかねない出来事」

 砂川浩慶・立教大教授(メディア論)の話 NHKの報道が「政権寄りでは」との批判もある中、過去の経緯が懸念される人物を復帰させるのは、NHKが視聴者から見放されかねない出来事だ。最高裁大法廷が2017年、受信料制度を「合憲」と判断してからは特に、放送番組に異議があるなどの場合に受信料を支払わない“良心的拒否”が事実上できなくなっている。NHKには「誰のためのNHK」なのか、改めて考えてほしい。

毎日新聞
2019年4月9日 19時55分
https://mainichi.jp/articles/20190409/k00/00m/040/220000c