新元号発表という「歴史的な瞬間」を国民に届け、スポットライトを浴びた菅義偉・官房長官。いつも会見で見せているポーカーフェイスが一転、元号発表当日は朝から高揚感を隠しきれない様子だった。「新時代の到来」は、菅氏、そしてそれを取り巻く永田町にも“ある変化”をもたらしていた──。

 菅氏は「総理を目指さない政治家」と言われ、これまで一度も政権への意欲を見せたことはない。『総理の影―菅義偉の正体』(小学館刊)の著書があるノンフィクション作家の森功氏が語る。

「菅という政治家は風貌は地味で表舞台に立って政治を行なうことが上手ではない。安倍(晋三)首相のような明るさもない。本人もそのことをよく自覚している。むしろ実務家として官僚を動かすタイプで、政権を支える官房長官を天職だと考えている。政治家になった以上、総理への野心が全くないとは思わないが、非常に慎重な人だから、今も総理・総裁を目指して動くことは考えていないと思う」

 近い人物ほど同じ見方をする。

 菅氏が「影の総理」と呼ばれる力を持ったのは、安倍首相が時に衝突しながらも、“野心”のない菅氏に内政を任せてきたからだ。政権の看板である成長戦略は菅氏の政策と言っていい。

「財界の要請で外国人労働者受け入れへと国の基本方針を転換したのは菅さんの判断。観光立国のためにビザ発給要件を大幅に緩和したし、水道法改正なども主導した。携帯料金の値下げが決まったのも菅さんの鶴の一声だった」(内閣官房の中堅官僚)

 新元号発表についても保守派の猛反対を押し切って新天皇即位の1か月前に発表する剛腕を見せつけた。

◆「偉駄天の会」を結成

 人事権も握っている。内閣改造の際、大臣は安倍首相が選ぶが、各派閥へのポスト配分が必要な副大臣、政務官の人選は菅氏が中心に調整するとされる。そこで無派閥議員が不利にならないよう配分してきた。菅氏は地元・神奈川新聞のインタビューでこう語っている。

〈派閥をつくる気はない。無派閥で当選4回以下の衆院議員に、政治家として歩んできたことをアドバイスしている。派閥に所属しなければ役職に就けないといったことをなくしていこうと。党全体を見て必要な人は応援していくということだ〉(2018年8月12日付)

 しかし、官房長官として実績を積み上げた菅氏は党内で「次の総理の最有力候補」と見られるようになり、周囲に人が集まってきた。

 派閥の役割はポストの配分だ。菅氏がいくら「派閥をつくる気はない」と言っても、ポストで世話になれば、菅氏を「親分」と頼りにする議員が増える。党内には無派閥議員を中心に菅氏を囲むグループが次々に生まれている。

「偉駄天の会」はインドの神・韋駄天の韋の字を菅義偉の「偉」に変えた派閥横断的なグループで、その中で当選4回以下の無派閥の若手議員たちの集まりが韋駄天の兄弟・歓喜天(別名ガネーシャ)の名前を取った「ガネーシャの会」。菅側近の梶山弘志・前地方創生相、小此木八郎・前防災相らの「無派閥有志の会」もある。その数を合わせると無派閥議員約70人のうち30人とも50人ともいわれる。

 昨年の自民党総裁選では、菅氏自らそうした無派閥議員たちと安倍首相の食事会をセットし、安倍支持票を取りまとめた。ポストを配り、総裁選で一糸乱れずに動く。派閥そのものである。“菅派”議員の1人が匿名を条件に語る。

「われわれが表だって菅さんを次の総理にと動けば菅さんに迷惑をかける。仲間はその時まで声を上げないようにしようと申し合わせている。もちろん、安倍政治を引き継げるのは実力的に菅さんしかいないという思いはみんな同じです」

 そうした「待望論」が菅氏の背中を押している。

2につづく

ポストセブン
4/9(火) 11:00配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190409-00000011-pseven-soci