「日本の職場では誰も助けてくれなかった」。二〇一七年八月、中国・湖北省出身の女性(35)は、当時働いていた静岡県内の製紙工場で、外階段の三階踊り場から飛び降り自殺を図った。一命をとりとめたが腰の骨などを骨折した。約三カ月の入院後、知人の紹介で、岐阜県羽島市でNPO法人が運営する技能実習生のためのシェルター「外国人労働者救済支援センター」に移り住んだ。今は、シェルターで暮らしながら、うつ病の治療中だ。

 女性は一五年、夫(40)と長女(11)、長男(6つ)を中国に残して一人で来日。製紙工場で働いた。来日を仲介する中国の業者からは「手取りは二十万円以上」と聞かされていたが、翌日午前二時まで夜勤をする日があっても寮費などを差し引かれ、手取りは月十万円前後だった。

 機械に指を挟まれて爪がはがれても、仲間の中国人実習生に「中国人みんなの責任になる。けがをしたことは上司に言わないように」と言われた。機械が故障すると、「バカ」などと日本人上司が怒鳴るからだ。日本人同士では仕事中に談笑しているのに、女性が他の実習生と話すと怒られ、工場では常に緊張を強いられた。

 一七年八月には近くで、女性と面識のあった技能実習生の中国人女性が、同じく実習生で中国人の男に刺殺される事件が発生。女性は大きなショックを受け、夜勤後に一人で自転車で寮に帰るのが怖くなった。「日勤に変えてほしい」と上司に頼んだが、「タクシーで帰りなさい」「あなたは中国人で実習生。日本人の言うことを聞かなければならない」などと言われた。相談に乗ってくれる人がいない孤独感を募らせ、女性が自殺を図ったのはこの後だった。

 シェルターに移った後の昨年二月、岐阜市の「すこやか診療所」でうつ病と心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。女性は、会社での差別的な扱いなどが原因でうつ病になったとして、約半年後に静岡県内の労働基準監督署に労災申請した。会社側は「労基署に対応を任せており、審査結果が出ていないためコメントできない」としている。

 「低賃金や、言葉が通じない中で日本人との間に上下関係があるなど、技能実習生は精神を患いやすい環境で働いている」。女性の主治医で、同診療所の遠藤嶺(りょう)医師(29)は指摘する。

 同診療所の渡辺貴博医師(43)は、ここ一年で、女性以外にも二十〜四十代の技能実習生四人をうつ病と診断した。そのうちの一人は、残業しても寮費や食事代などを引かれて、手取りが数万円という月もあったという。「まるで女工哀史の世界」と渡辺医師は言う。

 法務省の集計では、一〇〜一七年に百七十四人の技能実習生が日本で死亡している。事故や病気のほか、自殺なども含まれており、死亡の経緯がよく分からない案件もある。渡辺医師は願う。「表に出ているのは氷山の一角ではないか。実習生たちは、通訳がいなくて病院を受診できないなど孤立しがち。安全に働ける環境を職場で整えてあげてほしい」

 (細川暁子)
◆国も相談窓口設置

 技能実習生らの支援に向け、厚生労働省と法務省は2017年、認可法人「外国人技能実習機構」を設立。東京の本部=電03(6712)1523=と全国の事務所計14カ所で実習生や会社からの相談に応じている。

 中国語やベトナム語など9カ国語で対応しており、18年12月までに約2200件の相談が寄せられた。同機構は会社と実習生をつなぐ監理団体の検査や指導も行い、法令違反が認められれば、国が業務停止を命じる。

東京新聞
2019年3月29日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201903/CK2019032902000203.html