「足踏みしている福岡県を前に進めるために、誰がリーダーにふさわしいのか、しっかり判断してほしい」

 10日に福岡市で声をあげたのは河野太郎外相だった。福岡県知事選に出馬する新人で元厚生労働官僚の武内和久氏(47)=自民党推薦=の街頭演説会。国会と海外出張の多忙を嘆く河野氏が駆けつけたのは、所属する麻生派を率いる麻生太郎副総理兼財務相(衆院福岡8区)のためだ。

 麻生氏は武内氏擁立を主導。3選を目指す現職の小川洋知事(69)の追い落としを図り、保守分裂となった。

 同じ10日、同県久留米市で小川氏の支援組織の設立大会があった。マイクを握った岸田派の藤丸敏衆院議員(福岡7区)は「知事に、次もいい成績で当選していただきたいのが本音だ」と態度を明確にした。福岡選出の自民衆院議員11人中、過半数の6人が小川氏支持の「造反組」となった。自民の有力支持団体や公明党県本部も加わり、「麻生包囲網」の様相が広がる。

麻生氏は2011年と15年の知事選は小川氏を支援した。だが保守分裂の16年の衆院福岡6区補選で、麻生氏らが推す候補の出陣式に小川氏が出席せず関係が悪化した。麻生氏系が主導する自民県連は昨年末、武内氏の推薦を党本部に求めた。

 12年末の第2次安倍内閣発足以来、屋台骨として安倍晋三首相を支える麻生氏。二階俊博幹事長に近い武田良太元副防衛相(衆院福岡11区)ら福岡の二階派議員が小川氏支援を主張したが、党本部が麻生氏の意向を退ける選択肢はなかった。

 だが分裂の発端の6区補選では麻生氏が推した候補は落選。県政界関係者には、麻生氏が09年の自民下野時の首相であるのを念頭に「麻生氏は『常敗将軍』だ」との声も漏れる。麻生氏が地元の知事選で敗れれば「政権内で存在感が低下する」(自民党関係者)との指摘もある。

 麻生氏の苦境を深めるのは、中央と県内の双方で主導権争いを続けてきた古賀誠元幹事長(岸田派名誉会長)と、山崎拓元副総裁(石原派最高顧問)が小川氏側に立つことだ。麻生氏側近は「2人は『反安倍』。麻生氏にダメージを与え、政権を弱らせようとしている」と警戒する。

 政権はダメージ抑制に腐心する。公明党の支持母体の創価学会は小川氏に接触し、立憲民主など野党の推薦の辞退を働きかけた。官邸幹部は「これでどちらに転んでも自民党は負けにならない」と安堵(あんど)の表情を見せた。

 1月30日に党本部推薦が決まった際も、「造反組」への配慮が見え隠れする。甘利明選対委員長は記者団に「参院選に結束して一糸乱れぬ形で取り組むのを前提条件に決定した」と語った。知事選直後の参院選への協力を測る、とも取れる。

 二階氏は今月5日の記者会見で「県民が自主的に決めることが大事」と述べるにとどめた。推薦候補が勝てば問題はなく、敗れても自派議員の福岡での影響力は強まる。党幹部は「二階氏は福岡知事選で傷つかない」と語った。【西嶋正法、竹内望】

◇福岡県知事選立候補予定者

小川洋(おがわ・ひろし)69 [元]内閣広報官(2)無現

武内和久(たけうち・かずひさ)47 [元]厚労省室長 無新=[自]

篠田清(しのだ・きよし)70 党県副委員長 無新=[共]

毎日新聞
2019年3月12日 20時36分
https://mainichi.jp/senkyo/articles/20190312/k00/00m/010/240000c.amp