やっぱり労働者の賃金は、まったく増えていなかった――。これまで安倍首相は、二言目には「雇用が回復した」「賃金が上がった」とアベノミクスの成果を誇っていたが、なんのことはない、基となるデータは、すべて厚労省が“偽装”した数字だった。同省は来週、正しい数字に基づいて「実質賃金」を発表する予定だ。「実質賃金はマイナスでした」となるのは確実だ。

 野党は先月末、独自集計に基づいて、昨年1〜11月の実質賃金の伸び率は、マイナス0・5%だったと指摘。厚労省もデータの見直しによって、野党の試算と同じような結果が出ると認めた。来週公表される試算結果も、実質賃金の伸び率はマイナスとなる可能性が高い。

「政府与党は、統計調査問題を長引かせるのは得策ではないと判断したのでしょう。厚労省の組織的な隠蔽が指摘され、アベノミクスにも疑義が生じてしまった。このまま『賃金はアップしている』と強弁しても、傷を広げるだけだと観念したのだと思う。珍しく白旗を揚げた。実際、いずれ正しい数字は明らかになりますからね」(政界関係者)

 野党の試算によると、昨年1〜11月のうち、実質賃金の伸び率が前年同月比でプラスだったのは、昨年6月(0.6%)の1カ月だけだったという。恐らく、厚労省が発表する数字も似たようなものになるはずだ。

 きのう(1日)の参院本会議でも「アベノミクス偽装」に関する追及が相次いだ。安倍首相は、昨年の実質賃金の伸び率がマイナスになるかと問われ、「算出が可能かどうか、担当省庁で検討している」と逃げの答弁だった。

■6年の景気拡大でも実質賃金はマイナス0.6%

 どうやら安倍首相は、昨年の実質賃金の伸び率がマイナスだったことを認めれば、火消しできると思っているようだ。しかし、野党は追及の手を緩める気配はない。なぜなら、約6年の「景気拡大期間」も実質賃金はマイナスだった可能性があるからだ。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏の試算によると、6年間の実質賃金の伸び率は、平均でマイナス0.6%。つまり、先月29日、安倍政権は戦後最長の景気拡大を記録した「いざなみ景気」を超えたとの見解を発表したものの、賃金伸び率はマイナスだったというワケだ。

法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。

「統計不正発覚によって、皮肉にもアベノミクスの失敗が明らかになりました。景気回復の実感がない国民の方が政府発表よりも正しかったことが判明し、安倍首相は追い込まれているのではないか。その証拠に、野党が国民の実感に近い実質賃金のマイナスについて質問しても、名目賃金や雇用情勢などを引き合いに出して、まともに答えようとしません。政府は『いざなみ景気超え』を強調していますが、国民は『いったいどこの国の話だ』と思っているのではないでしょうか」

 安倍首相は、不正発覚が相次ぐ政府統計に頼れないため、苦し紛れに連合の調査を引き合いに出して答弁しているが、この調査もまた厚労省の「賃金構造基本統計」(賃金統計)に基づいたものだ。

 アベノミクスがウソでつくられた数字だったと発覚し、いよいよ安倍政権の終わりが近づいている。

日刊ゲンダイ
2019/02/03
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