沖縄県の米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡り、モデルでタレントのローラさん(28)が埋め立てに反対の署名をするよう、写真共有アプリ「インスタグラム」で呼びかけた。多くの賛意が寄せられた一方で、ネット上に「モデルのくせに」「対案を出せ」といった書き込みが相次いでいる。芸能人が政治的な事案に触れるとバッシングが広がる背景には何があるのだろうか。【江畑佳明】

■署名運動参加を呼びかけ

 ローラさんが呼びかけたのは、ホワイトハウスの請願サイト「We the people」への署名。インターネットの署名で、トランプ米大統領への申し立てができる。開始から30日以内に10万筆が集まれば、ホワイトハウスが何らかの回答をする仕組み。オバマ前大統領のときに設けられたものだ。

 請願を起こしたのはハワイ在住の作曲家、ロブ・カジワラさん。沖縄県出身者の血を引く日系4世だ。2019年2月予定の新基地の是非を問う県民投票まで、工事を止めるよう求めている。12月8日に始まり、既に17万筆を超えている(12月30日現在)。

 ローラさんはこれまでも、伐採された森の写真をインスタグラムに掲載するなど、環境問題への関心を示してきた。同月18日、自身のインスタグラムで「美しい沖縄の埋め立てをみんなの声が集まれば止めることができるかもしれないの」「ホワイトハウスにこの声を届けよう」とつづり、署名を呼びかけた。

■フォロワー520万超の飛び抜けた発信力

 同様の発信をした芸能人はローラさんだけではない。沖縄県出身のタレント、りゅうちぇるさん(23)も自身のツイッターで地元紙の記事をリツイート(拡散)した。ラサール石井さん(63)、東ちづるさん(58)、うじきつよしさん(61)などもツイッターで署名を呼びかけた。とはいえ、ローラさんのインスタグラムのフォロワー数は520万超。国内2位の多さで、その発信力や影響力は大きいとみられる。

 ツイッターなどでは「声を上げてくれてありがとう」といった賛辞の一方、「所詮モデルが知識人ぶらないで」「反日タレントだったとは」といった批判が相次いでいる。またテレビの情報番組などで取り上げられ、出演者から「もっとちゃんと勉強して言うべきだ」などとの意見が出た。だが、どんな立場の人間でも自由に発言する権利はあるはずだし、そもそも、政治的な意見を言う芸能人は少ないように見える。

■「事なかれ」広がる芸能界

「テレビ業界や芸能界には『タレントは政治的な発言をすべきではない』という慣習、暗黙の了解があります」。そう指摘するのは上智大教授の碓井広義さん(メディア文化論)だ。テレビプロデューサーとして20年間、番組制作に携わってきた経験を持つ。「民放の番組はスポンサー企業からの収入で成り立っています。企業は自社に政治色がつくことは経済的にプラスにならないと考えている。制作側はその企業の意向に配慮し、出演者のタレントもそれに異を唱えない。政治的な意見を言わない『事なかれ』のほうが、皆うまく回るという考えが定着してきました」と説明する。

 また芸能人の立場の不安定さも要因にあるという。「今は売れっ子だとしても、この先同じように仕事が回ってくる保証はありません。だから自然と、余計なことを言わないほうがいい、と判断しがちになります」

2につづく

毎日新聞
2018年12月30日 19時04分
https://mainichi.jp/articles/20181230/k00/00m/040/098000c