お手紙ありがとうございます。

せっかくいただいたお手紙にもかかわらず、完読するのに10日もかかってしまったことをお許しください。
お手紙を拝読させていただき、一つ一つ、一瞬一瞬の痛みや恐怖、絶望を感じてしまい、どうしても一気に読み通すことができませんでした。

お手紙を書いていただくこと、大変なエネルギーを費やしていただいたのだと思います。
伝えてくれて本当にありがとうございます。

そして私の本を読んでいただきありがとうございました。
私がお手紙を読んで感じたように、貴女も様々な感情に襲われ読み進めるのが大変だったのではないかとお察しします。

そう考えたときに、今までBLACK BOXを読んでくださった方々に改めて感謝の意をお伝えしたいと思いました。そして#MeTooが起きてから、同じように、心の奥にしまい込んでいた苦しい記憶が呼び起こされてしまった方も多かったことだと思います。しかし私たちがよく知っているように、これはいくら心の奥に追いやっても忘れられることはできないものです。

私は心理学者ではありませんが、この経験を通じて私たちが生き延びるために、自然にとってしまう行動の数々があることを学びました。

25年前に経験されたことがこの、#MeToo運動の起きた後の2018年だったら、もう少し社会に理解があったのではないかと思ってしまいます。この苦しい経験を繰り返さないために学ぶことは多くあり、そして、それは決して遅くはありません。

例えば、「何故6人も被害者がいて抵抗しなかったのか?」

スウェーデンのレイプ緊急センターの調査で明らかになっているように、性暴力を受け擬死状態になってしまうのは命を守る自然な行為で被害者の7割がこの状態に陥るというデータがあります。

私たちがよく知っているように、恐怖で固まってしまって抵抗ができない状態は、性行為に同意しているのではありません。生き延びるための方法です。

しかし昨年、110年ぶりに改正された強制性交等罪でもこの点は改正されず、このごく自然な防衛本能は全く無視されました。暴行脅迫要件は依然として残り、著しく抵抗しなくては合意があったとみなされ、性暴力だと認められない現状はまだ続いています。

私たちには被害について話す、話さないという選択肢があり、MeTooは決して“話す”という選択を強要するものではありません。MeTooは「話しても良いんだよ」という環境づくりであり、話せるタイミングは人それぞれ違い、そしてそれに時間はどんなにかかってもいいのです。大切なことは今をサバイブすること。

なので、これだけはお伝えしたいです。

貴女があの時とった行動がベストだったということ。だからこそ生き延びて、新しい家庭を築かれ25年経った今、私たちに重要なメッセージを投げかけてくださいました。

今回このようにお手紙を書いていただいたことで、改正しなければならない点について光を当てていただいたこと、思いを伝えてくださったこと、本当にありがとうございます。

感謝と敬意を込めて。

伊藤詩織

終わり