特定秘密保護法、安保法制、共謀罪、働き方改革関連法、カジノ解禁……。6年にわたる安倍政権下で強行採決された“悪法”は数知れず。そんな中、日本の食や農業を守ってきた大切な法律がひっそりと廃止された。米や麦、大豆の安定供給を担保してきた「種子法」である。

 種子法は、戦中・戦後の食糧難の時代の反省から、1952年に制定された法律だ。これを根拠法として国が予算を出し、自治体が主要農作物の優良な種子を生産・普及することで、国産の安い米などの安定供給を実現してきた。

 ところが、昨年の通常国会でロクな審議を経ることなく、種子法の「廃止法」が可決。今年4月から施行されているのだ。

 同法を所管していた農水省は廃止の理由について、「(種子法が)民間事業者の品種開発・参入を妨げているから」と説明。その裏にあるのは安倍首相がたびたび口にする「岩盤規制の突破」や「規制改革」である。

 農業や食料自給を守ってきた種子法を「民間への参入障壁=岩盤」とみなし、規制改革の名の下で大企業がカネ儲けしやすい環境をつくる――。モノやサービスの自由な取引を定めたTPPと根っこは同じだ。元農水大臣で弁護士の山田正彦氏がこう言う。

「種子法廃止の背景にはTPPの交渉参加があります。我々が提起したTPP交渉差し止め・違憲確認訴訟で、今年1月に東京高裁が原告の訴えを退ける判決を下した際、判決文の中に、『種子法の廃止については、その背景事情の1つにTPP協定に関する動向があったことは否定できないものの……』という一文がありました。国民の税金で賄われてきた公共サービス・知的財産が、TPPや種子法廃止によって、民間の多国籍企業などに開放されてしまうのです」

 有識者が農林水産分野の政策を審議する規制改革会議農業ワーキンググループでは、種子法廃止の是非を巡る議論は一切されず、「(種子法に)制度的な課題がある」と指摘されただけ。その「課題」とは、カネ儲けをしたい民間企業にとって“邪魔”だということだ。

「民間企業が種子事業に参入することで、これまで口にしてきた銘柄米が食べられなくなるかもしれません」(山田正彦氏)

 それだけじゃない。外国からも「種」が入ってくることになり、価格高騰や安全性の不安といった問題にも直面する。日本の食卓風景はガラリと変わらざるを得なくなるのである。 (つづく)

日刊ゲンダイ
2018/10/26 06:00
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/240261/