故翁長雄志氏の遺志を受け継ぐと訴え、県知事選で当選した玉城デニー知事が12日、首相官邸で安倍晋三首相や菅義偉官房長官との初会談に臨んだ。名護市辺野古の新基地建設を巡って双方が「対話」を求める中で、玉城氏は「民意」に基づき反対の考えを示したが、首相は「沖縄に寄り添う」と説明しつつ移設を進める政府の立場は変わらないと伝えた。首相は翁長氏との初会談まで4カ月かけたのとは対照的な低姿勢を示したとはいえ、歩み寄りは見られず、対話の行き着く先は見通せない。

■政府、低姿勢演出も
 「もやもやしたものがあった」

 会談で首相は、翁長氏の知事就任後約4カ月、会談に応じなかった事情をこう表現した。自民党県連幹事長も務めた“身内”でもある翁長氏が政府方針に異議を唱え、知事になり対立を深めたことへの感情を説明したとみられる。その上で、もともと政党や政治的立場が異なる玉城氏の印象の違いを語り、対話の姿勢を見せたという。

 ただ、首相が玉城氏との会談の要望に早い段階で応じた理由はそれだけではない。対話姿勢を打ち出さざるを得なかったのは、2度にわたる選挙で示された移設反対の民意を無視できなかったことが大きく影響している。

 政府関係者は「知事選で振り出しに戻された気持ちだ。辺野古の方針で折り合えない以上、対話なき対話だ」と語った。

 政府が対話姿勢を打ち出しているとはいえ、辺野古移設に関する方針を変える考えはない。菅氏は会談後、県の埋め立て承認撤回への政府の対抗措置について、玉城氏に「処分理由の精査を行っている」と伝えたことを会見で明らかにした。防衛省幹部は「民意は重要なファクター(要素)だが、全てではない」と強調し、移設を進める必要性を語った。

■グアム移転を人質≠ノ
 知事就任から9日目で実現した官邸との対話について、県庁内では期待感と警戒感が交錯した。

 玉城氏が会談で増額を求めた沖縄関係予算は、対立を背景に翁長県政で減り続けた。県幹部は「『県政不況』をつくろうとしたのは見え見えだが、これが続けば地元の自民党県連や経済界も干上がってしまう」と語り、政府の対応に変化が出る可能性を指摘する。

 政府が「対話」を強調する一方で、菅氏が辺野古移設と在沖米海兵隊員のグアム移転が「結果的にリンクする」(10日の会見)と発言するなど、新県政に揺さぶりを掛ける動きも浮上している。

 日米は2012年に辺野古移設とグアム移転を切り離して進めることで合意したが、政府が今後、辺野古移設が実現しなければグアム移転も進まないとして県政に“責任転嫁”する可能性がある。普天間飛行場の「5年以内の運用停止」について、翁長県政になって辺野古移設への協力が得られないことを理由に政府が実現を困難視したのと同じ手法とも言える。

 基地政策に関わる別の県幹部は、県の埋め立て承認撤回から1カ月以上が過ぎても政府が対抗措置を取らないことに関し「丁寧に時間を置いて沖縄県に説明したという姿勢を見せたいのだろう」と推測。豊見城、那覇と続く市長選にも配慮したとみて、両市長選後の政府の動きを警戒する。 (与那嶺松一郎、當山幸都)

琉球新報
2018年10月13日 05:00
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