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安倍総理も苦笑い…プーチン「平和条約提案」の怖すぎる真意
「北方領土はあきらめろ」そして…
長谷川 幸洋

2018/09/14

北方領土の解決抜きで平和条約…?

ロシアのプーチン大統領が存在感を発揮している。9月12日にはウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムの壇上で突如、同席した安倍晋三首相に「年末までに平和条約を締結しよう」と提案した。大統領の思惑は、どこにあるのか。

プーチン氏は「われわれは70年にわたって交渉してきた。安倍首相はアプローチを変えよう、と提案した。私の考えはこうだ。(日本とロシアが)平和条約を今ではないが、今年が終わる前に、前提条件を付けずに締結しよう」と語った。

ブルームバーグによれば、安倍首相は返事をしなかったが「聴衆は喝采した」という。安倍首相が答えなかったのは当然だ。日本は「北方領土問題を解決して日ロの国境を確定したうえで、平和条約を結ぶ」というのが基本的方針である(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/hoppo_rekishi.html)。

プーチン氏は提案について「いま思いついたことだが、ジョークではない」と語り、ロシアの外務次官は「(提案は)日本への事前通告なしだった」と説明している。大統領が、どこまで本気だったかは疑わしい。一種のスタンドプレーだった可能性もある。

安倍首相は壇上で苦笑いしていた。あえて前向きに受け止めれば、そんな話を公衆の前でできるほど、2人は率直な関係を築いている、と評価できるかもしれない。

そもそも平和条約とは何か。法的に戦争状態にある2国が戦争の終結を宣言して締結する条約だ。日本はロシアの前身である旧ソ連と戦ったが、1945年8月15日にポツダム宣言を受諾し、9月2日に降伏文書に調印した。

旧ソ連軍は日本がポツダム宣言を受諾した後、北方領土に入り、9月5日までに北方領土を順次、占領した。その後、一方的にロシア領土への編入を宣言した。日本は51年に米国などとサンフランシスコ平和条約を結んだが、旧ソ連はこれに調印しなかった。

以上の経過から、日本がロシアと平和条約を結ぶには、まず日本の領土である北方領土を返してもらって、国境線を確定することが前提になる。戦争後の領土の帰属を最終的に確定するのが、平和条約の役割そのものと言ってもいい。

北方領土問題の解決抜きで平和条約を結んでしまえば、ロシアの領土編入を既成事実として認める結果になりかねない。プーチン氏は「前提条件を付けずに平和条約締結を」と提案したが、日本にとっては「北方領土はもうあきらめろ」と言われたのも同然なのだ。

「北方領土がだれのものか決まっていないが、とりあえず棚上げして平和条約を結ぼう」と言っても、世界史をみれば、領土の争いが戦争になった例はいくらでもある。「戦争の火種を残す平和条約」というのは原理的矛盾だ。それでは平和条約にならない。
(リンク先に続きあり)