年金支給開始を70歳に引き上げる魂胆がミエミエだ――。企業の継続雇用年齢引き上げの検討が本格化し、年金にもメスが入りそうなのだ。

 現行の「高年齢者雇用安定法」は、希望者に対し65歳まで働けるようにすることを企業に義務付けている。今秋以降、これを70歳へ引き上げることを政府の諮問会議などで検討に入るという。

 社会保障に詳しい立正大客員教授の浦野広明氏(税法)が言う。

「元気で意欲のある高齢者が働くことは大いに結構ですが、希望者と会社が合意のうえ進めればいい話です。政府が義務化するというのは、年金の支給開始年齢引き上げが念頭にあるからでしょう。高齢でも働けるのだから、年金支給は遅らせるということになるのは間違いありません」

 年金支給開始年齢は、男性は2025年から、女性は30年から、完全に65歳に引き上げられるが、すでに財務省は4月の「財政制度等審議会」で年金支給の68歳への引き上げを提言している。その時の資料に“本音”が隠してある。

<支給開始年齢の引き上げは高齢就労を促進する>とある。つまり「年金支給を渋れば、そのうち働くだろう」ということだ。高齢者への“兵糧攻め”である。

 継続雇用年齢と年金支給開始がともに70歳になったら、どうなるのか――。浦野広明氏が続ける。

「老後の年金暮らしを想定していた人は、働かざるを得なくなります。最も困るのが病気などで働けない高齢者です。医療費はかさみ、働けずに収入はない上、年金まで断たれる。どうやって生きていくのか。高齢者を、元気な人とそうでない人に分断することにもなります」

 安倍首相は3日の日経新聞のインタビューで、生涯現役時代を掲げ「65歳以上への継続雇用年齢引き上げを検討する」と明言している。年金支給の70歳引き上げなど許されない。どこまで高齢者を痛めつければ気が済むのか。

日刊ゲンダイ
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