28日付の米紙ワシントン・ポスト(WP=電子版)は米国に内緒で、7月に日朝当局者がベトナムで極秘会談を行ったと報じた。拉致問題について話し合ったとみられる。首相も外相も一向に金正恩委員長に会えないことに焦った安倍政権が仕掛けたお忍び会談だが、“寝耳に水”の米国はカンカンだ。

 菅義偉官房長官は29日の会見で「報道された事案にいちいち政府がコメントするのは控えたい」と語り、極秘会談を否定しなかった。 WPによると、日本側は内閣情報調査室トップの北村滋内閣情報官、北は金聖恵統一戦線部統一戦線策略室長が参加した。

 統一戦線部は“北版CIA”ともいえる工作機関。6月の米朝首脳会談も、統一戦線部が事前交渉に奔走し実現した。金聖恵氏は実務責任者だ。4月の南北会談、6月の米朝会談にも随行している。北の最高学府「金日成総合大学」出身の50代のエリート官僚で、金正恩の妹・金与正の側近とされ、権力基盤もしっかりしているという。日本相手にそれなりの責任者が対応した格好だ。

■秘密工作のプロ中のプロがあっさりと

「日本政府高官は、拉致問題の交渉のためにはトランプ政権だけに頼るわけにはいかないと認識している」とWPは伝えている。安倍首相は「拉致問題は日朝間で解決しなければならない」と言っているから、そのための一手だったのだろうが、国際ジャーナリストの太刀川正樹氏がこう言う。

「3月から6月までに、中国・習近平国家主席、韓国・文在寅大統領、ロシア・ラブロフ外相、米トランプ大統領が金正恩委員長と会談しました。6カ国協議の構成国でトップや外相が正恩に会えていないのは日本だけ。安倍政権内には焦りがあった。とはいえ、外務省も官邸も北とのパイプがない。そこで、7月に安倍首相側近の北村氏が、苦し紛れの“直談判”に乗り込んだのでしょう」 極秘会談について日本が事前に米国に伝えなかったとして、米政府高官が不快感をむき出しにしたとも報じられている。元韓国国防省北朝鮮情報分析官で拓殖大主任研究員の高永侮≠ェ言う。

「外交交渉において、密談や密約は必要不可欠なことです。日本政府が米国に通知しないで北と高官会議を開くのだって、交渉手法としてはあってもいい。ただし、密談、密約の類いは、数十年経過して情報公開などでやっと明らかになるのが通常です。極秘会談後、わずか1カ月そこらでオープンになるとは、なんともお粗末だと思います」

 北村情報官は、官邸の“アイヒマン”と呼ばれている。東大法卒業後の1980年、警察庁に入庁。公安畑を歩み、95年には海外工作員などによる諜報活動の捜査などを行う外事課に配属され、2010年には外事情報部長に就いた。秘密工作のプロ中のプロが、あっさり密談をリークされたわけである。どうやら、安倍政権に拉致解決はムリなようだ。

日刊ゲンダイ
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