「1票の格差」是正に向けた参院選挙制度改革をめぐる自民党提出の公職選挙法改正案が18日、衆院で可決、成立した。「埼玉選挙区の定数2増」「比例代表定数4増」「比例名簿に特定枠を設ける」という自民党案に対し、参考人として出席した9日の参院政治倫理確立・選挙制度特別委員会(倫選特委)で「選挙制度は国民のためにある。自民党のためではない」とバッサリ切り捨てたのが、元自民党参院幹事長・脇雅史氏だ。2013〜14年に与野党でつくる参院選挙制度協議会の座長を務め、22府県の選挙区を11に再編する独自案を示した参院選挙制度の“専門家”の目に古巣の改正案はどう映ったのか。

■抜本策を作るという法律を作らない自民党

  ―――まずは参院選の「1票の格差」問題をどう見ていますか。

「1票の格差」問題については、以前から国会で問題視する声が出ていたけれども、あまり本気で対応してきませんでした。ところが、2012年10月、最高裁が10年の参院選の「1票の格差」を「違憲状態」と判断した。これを受け、さすがに制度を変えないといけないという空気が国会で強まったわけですが、次の参院選(13年7月)までは8〜9カ月しかなかったため、抜本改革は無理だろう、と。そこで当面の是正策として「4増4減」という、ほんのちょっとの格差是正をした。そして改正公選法の付則で、16年の参院選までには「制度の抜本的な見直し」「結論を得る」と明記したのです。つまり、国会にとって参院選挙制度の抜本的改革は「責務」となったわけです。

  ――国会は「1票の格差」是正に必ず取り組まなければならないとなったわけですね。

 そうです。ところが自民党は相変わらず、「そんな必要はない」「最高裁なんか関係ない」という姿勢でした。しかし、15年の法改正に向けて公明党や当時の民主党が10カ所の「合区」を提案すると、このままだと「10合区案」が成立するかもしれないと慌てたのでしょう。自民党は少数野党と組んで現行の「2合区10増10減」という案を出して押し切ってしまった。筆頭与党のリーダーシップを発揮したわけではありません。自分たちにとって都合の悪い案が出てきたので、場当たり的に対応したに過ぎません。そして、抜本的な見直しについては先送りして、付則の「結論を得る」に「必ず」を付け加えただけ。倫選特委でも指摘しましたが、抜本的な解決策を出す、という法律を自ら作っておきながら、それを守らなかったのです。まったくひどい話で、私から見れば(自民党議員は)国会議員の資格がないと思いますね。

  ――参院選挙制度協議会の座長時代、改革に後ろ向きな参院自民党を「死んだも同然」と批判していました。

 自分たちで作った法律を守らないことに対する罪の意識もなければ、恥とも感じていない。だから、まともに生きてる人間ではないだろうという意味を込めて言ったのですが、それでも生きているのだから、ゾンビです。ゾンビになってよりひどいことをやっている。

  ――今回の自民党案のことですね。

 ドサクサ紛れで作った現行法は付則に「制度の抜本的見直し」が明記されていて、それ自体が抜本策ではないと認めているわけですが、(前回の法改正の時と)今回は少し状況が変わりました。昨年9月に最高裁が(合区が導入された)16年7月の参院選を「合憲」と判断したためです。要するに、ドサクサの現行法が「合憲」になったわけで、そうであれば今、慌てて法律を変える必要はありません。変えるのであれば、どう抜本改革に取り組むのかという国の基本的な理念、考え方を国民に示した上で行うべきです。

  ――しかし、今回の自民党案はそうではない。

 提案理由で行政監視のために比例代表を増やす、などとありましたが、国会議員を4人増やせば、今よりも行政監視の機能が高まると言いたいのでしょうか。人数を増やさなくても行政監視は与党がきちんと対応すれば済む話です。例えば森友問題で国会答弁に立った佐川宣寿理財局長(当時)に対し、与党議員が「いい加減な答弁をするな」と厳しく迫った場面がありましたか。皆、官邸の顔色をうかがい、追及するどころか「何もしていませんよね」と同意を求める追従発言ばかりでした。与党がしっかりしていれば、ああいうふざけた答弁にならなかったはず。今の与党議員に本気で行政を監視する気があるとは到底、思えません。

つづく

日刊ゲンダイ
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