https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180711-00000088-sasahi-sci

 ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。「ウィキペディア」イタリア語版の機能停止から見る、海賊版対策の副作用について解説する。

7月3日、インターネット百科事典「ウィキペディア」のイタリア語版が突如機能を停止した。6日時点では、どのページにアクセスしても、イタリア語版ウィキペディアコミュニティーの声明文が表示されるようになっていた。

 イタリアに続き、スペインやポーランド、ラトビアなどのウィキペディアも同様にブラックアウトした。声明では欧州連合(EU)の進める著作権指令改正案が「インターネットの自由を損ね、ウィキペディア自体を危機に陥れかねない」と批判。その抗議として機能を停止したと説明している。5日の欧州議会本会議で、この指令案に反対票を投じるよう議員に伝えてほしいと訴えた。

 EUの著作権指令案をめぐっては、ウィキペディアのみならず、多数のIT関係者、学者、市民団体、ネットコミュニティーからも「自由な情報共有を害する」として猛烈な批判が寄せられている。特に問題視されているのが、第13条と第11条だ。

 第13条は「著作権フィルター」とも呼ばれ、あらゆるウェブサービスに利用者から投稿される文章、音声、映像、画像、プログラムコードが、著作権を侵害していないかを確認するフィルターの導入を義務づけている。つまり、すべてのウェブサービスに強力な海賊版対策を求めるということだ。

 しかし、現実問題として、利用者が投稿するすべてのコンテンツを事前にチェックする著作権フィルターの導入・維持には莫大な費用がかかる。豊富な資金を持ち、すでに同様のシステムを実装しているユーチューブやフェイスブックはともかく、導入を迫られる中小、ベンチャー企業には極めて重い負担だ。結果的に競争が阻害され、大手プラットフォームによる市場支配を強化、固定化する懸念が指摘されている。

「リンク税」とも揶揄される第11条は、新聞社や出版社などの報道メディアに新たな権利を与え、ネット上の記事を集約するニュースアグリゲーターからライセンス料を徴収できるようにするというもの。莫大な利益を上げる大手ネット企業から、窮状に陥っている報道メディアに利益を還元させることを狙っている。

 ただ、このリンク税は2014年にスペイン、ドイツで実際に導入されたものの、いずれも失敗に終わっている。

 リンク税の標的となった「グーグルニュース」が対抗策として両国から撤退したため、報道メディアへのアクセスが激減。特にニュースアグリゲーターにピックアップされることでアクセスを得ていた小規模メディアが大打撃を被った。スペインはリンク税を撤回、ドイツでは権利者が徴収を諦めることになった。

 結局、問題の大きかったこの指令改正案は5日の欧州議会本会議で否決され、再検討を余儀なくされた。

 ネット上の海賊版対策は重要だが、副作用の大きい対策を強引に進めれば表現の自由や市場競争が侵害される。

 このあたりは、日本でも話題のサイトブロッキング問題とも通じる。どこでバランスを取るのか、その議論はまだまだ始まったばかりだ。