〈あらゆる規制を突破できる「国家戦略特区」のなせる技ということか〉――。憲法学者の水島朝穂早大法学学術院教授のネットコラムが話題になっている。

 コラムは「今週の『直言』」で、9日付で更新されたタイトルは〈「ゆがめられた行政」の現場へ―獣医学部新設の「魔法」〉。獣医師の息子を持つ水島教授が、52年ぶりに新設された加計学園の獣医学部に興味を持ち、6月下旬に愛媛・今治市の現地校舎を視察。その時の感想を振り返っているのだが、信じられないような記述がいくつも出てくるのだ。

〈3階は図書館になっているが、何と書架には本が一冊もない。(略)本はないのかと尋ねると、上の階の書架に8000冊ほどあり、年内に1万4000冊になるという。完成年度には10万冊というが、これは仰天の数字である。国家戦略特区で設置される「最先端の獣医学部」の図書館にしては、蔵書数があまりにも少ない。そもそも大学や学部の新設の際、図書館の蔵書は、大学設置審議会の重要な審査対象となる〉

 1984年4月に新設された札幌学院大法学部の開設に関わった水島教授。大学設置審の審査をクリアするために奔走した経験を踏まえ、〈図書館に法律関係の専門書や法律雑誌のバックナンバーなどが授業開始前に十分に揃っていることも設置認可の大前提だった。この獣医学部のように、授業が始まっているのに書架に本が並んでいないということは考えられないことである。本がなければ認可はあり得ない〉。

 学園側が「最先端」とアピールしていた施設にも、こうクビをひねっている。

〈専門的な実習や実験がこのスペースでできるのだろうかという疑問が生まれた。息子が通った獣医学部は実習や実験の施設が充実していた。それに比べると、3階、4階の基礎実習室は高校の理科室程度の印象だった〉

 そして極め付きは、これだ。

〈専門教育関係で言えば、獣医学部に必須の、牛や豚などの産業動物(大動物)を使った実習施設である大動物実習施設棟B2がまだ土台を作っている段階だった。「平成30年度末の完成」という説明だったが、専門教育の必須施設が未完成で認可がおりるというのは奇跡に近い〉

 あらためて水島教授がこう言う。

「教室(設備)、教授、蔵書の3つが不十分のまま大学設置審で認可がおりたことが信じられません。ムリヤリ通したツケは現場にくるのではないか」

 つくづく、どこが「世界に冠たる」獣医学部なのか。

日刊ゲンダイ
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