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カイロ大学

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評者:「週刊文春」編集部

「ひとことで学風を表現すると、
『混沌』という言葉が相応しい。
例を挙げれば、学生運動の激しさ。
学生の過激化を恐れて、大学内に警察や
公安の施設が当然のように存在する。
大統領の訪問に際しては、休校にして
キャンパスを完全無人化した上で、
軍用ヘリでやってきます。
暗殺を恐れてのことです。
まさに国家と学生のガチンコ勝負が
繰り広げられているのです」

大学の自治などという近代的な発想とは
無縁の修羅場。
そもそも、大学とは何かについて
コンセンサスなど存在しない。

「日本の大学にはそれぞれ建学の理念が
あるのが当然ですが、カイロ大はそれすら
混沌としている。
国民国家エジプトのエリートを育成する
のか、それともイスラーム世界の指導者
を輩出するのか、はたまたファラオの末裔
としてのプライド、アラブ人としての
アイデンティティーを涵養するのか。
学生にインタビューしても、三者三様です。原因は建学時にさかのぼります。
代表的な建学者と目されている人物だけで
8人もいて、それぞれ思想も理念も
バラバラだった。
競合する異なった価値観がキャンパス内で
入り乱れ、今に至るまで学生たちを混乱の
淵へ陥れているわけです。
やがて巣立ったOBたちは、その闘争を
世界中に拡散させていく。
『9・11』『イスラム国』といった世界史
的な事件事象も、カイロ大学思想闘争の
“場外乱闘"とみれば、すっきり整理
できます」