https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180606-00000032-sasahi-sci

 2017年の流行語にもなったフェイクニュース。対抗策のひとつとして、世界各国でファクトチェックの取り組みが活発化している。

 ところでファクトチェックのことを「事実確認」と思ってはいないだろうか。

 日本でファクトチェックの普及に取り組むNPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)ではファクトチェックに「真偽検証」と訳語をあてている。事務局長の楊井人文さんが説明する。

「メディアの方々はこれまでもファクトチェックはやってきたと言います。もちろん、記事を出す前に、取材対象が事実を言っているのか見抜いてガセに振り回されないようにする、といった意味での事実確認はやっているでしょう。そうではなく、すでに社会に流布している情報や言説を事後的に検証するのがファクトチェックです」

 情報や言説の「事実」部分に誤りがあるかどうかを検証して、結果を発表することまで行う。意見や見解は「事実」とは異なるので、そこに立ち入ることはしない。手法をめぐっては議論もあるが、米・ポリティファクトをはじめとした世界の代表的なファクトチェック団体が実践している方法はほぼ国際的に合意に達しているという。

 17年の衆院選では、FIJのガイドラインに基づき、バズフィード・ジャパンなど複数のメディアが参加し、ファクトチェックの協働プロジェクトを行った。楊井さんは、加計学園問題をめぐり、朝日新聞が前愛媛県知事の加戸守行氏の証言を報じたかについて、安倍首相が日本記者クラブ党首討論会で「証言した次の日に全く(報道)しておられない」と発言したことを取り上げて、根拠を検証し「不正確」と判定して発表した。

 楊井さんがファクトチェックに携わるようになったきっかけは11年の東日本大震災だった。大手メディア不信が高まり、それによって、かえってネットの間違った情報に引きずられてしまうという悪循環を見て、

「大手メディアがしっかり信頼できないと状況が悪化する一方なのではないかと感じました」

 基本的にクオリティーは高いが、外部の批判に弱く、報道の誤りを素直に認めたがらない、というのが楊井さんの大手メディア評価。

「間違いがあってはならない、という意識が強すぎるためか、誤りをごまかしたりすることも多いんです」

 埋もれている誤った情報を可視化しようと12年に日本報道検証機構を立ち上げ、誤報検証サイト「Go Hoo(ゴフー)」を開設、昨年のFIJ立ち上げにつながった。

 海外に比べて遅れている日本のファクトチェック。その要因を、事実よりも、右とか左といった立場で物事を見てしまうからと楊井さんは指摘する。自分の立場と関係なく「本当の事実」に迫るというスタンスを持っている人は多くない、と。

 ある海外の新聞社では編集部に“Facts matter.”(事実が大事)の標語が大きく掲げられているという。楊井さんは言う。

「極めて当たり前のことをわざわざ掲げるのは、人間は往々にして自分たちの見たいものだけを見てしまうからではないか」

 事実とは、立場を超えて共有できる認識だ。意見や考え方は多様であるべきだが、「ゆるぎのない事実」を共有しない限り、議論は成り立たない。「事実に到達することは簡単ではありません。思い込みで判断することも、はっきりしないことも多い。もしかして自分はわかっていないのではないか。認識をいったん疑ってみることは、情報が氾濫しているなかでは必要なことだと思うんです」

(編集部・高橋有紀)