加計学園の獣医学部新設をめぐり、国や学園との交渉経過をつづった愛媛県文書の余波が収まらない。国会質疑や関係者の発言などから分析すると、一連の経過と多くの点で合致している。信頼性を否定する材料が見当たらないなか、安倍晋三首相と加計孝太郎理事長の「面会」に関する両者の否定ぶりが突出しており、逆に学園の説明の不自然さが露呈する状態になっている。【佐藤丈一】

安倍首相と加計学園は強く否定

 「加計氏とお会いしたことはない」。首相は5月28日の参院予算委員会で、文書に記された「2015年2月25日に理事長が首相に面談(15分程度)」との記述を強く否定した。学園側もその2日前の26日、「当時の担当者が県と今治市に誤った情報を与えた」とのコメントを公表。渡辺良人事務局長が31日に県や市を訪れて謝罪し、取材に対して「自分が言ったと思う。その場の雰囲気で」と釈明した。

それでも文書の記載は明確だ。「学園から、理事長と首相の面談結果について報告したいとの申し出があり、3月3日に打ち合わせ会を行った」と説明。その後に面会の概要として「首相からは『そういう新しい獣医大学の考えはいいね』とのコメントあり」「柳瀬(唯夫首相秘書官・当時、現経済産業審議官)氏から改めて資料を提出するよう指示。早急に調整」などと記されている。

文書の内容否定、でも報告は事実

 面会は架空のものだったとする学園の説明が事実ならば、地元自治体に対する報告内容が「虚偽」だったことになる。その半面、文書は学園側の説明を正しく記録していたことを示し、その正確性を裏付けることになる。

 ただ、これまでの説明に照らせば、にわかに納得できない点が少なくない。学園のコメントは面会を持ち出した理由について、当時、獣医学部の新設計画が行き詰まったため、「何らかの打開策を探していた」と説明。「首相と友人である理事長の面会」を錦の御旗(みはた)に、県や市からより積極的な関与を引き出そうとしたように受け取れる。

首相「地位を利用しない人物」に疑問符

 「昔からの友人なので会うことはあるが、(首相の)地位を利用して彼が何かを成し遂げようとしたことはなかった」。首相は昨年7月の国会答弁で加計氏についてこう語り、個人的に獣医学部の話をしたことはないと強調してきた。行政トップとの面会を「打開策」と位置づけた学園のコメントは、これまでの首相の説明と明らかに矛盾する。

 元検事の郷原信郎弁護士は「学園が本当に地元自治体をだましたとしても、首相との面会を偽る以上、理事長である加計氏が知らなかったとは考えにくい」と指摘する。

 学園のコメントが事実ならば、県や市の積極的な関与を引き出すため、学園が主導して架空の首相面会まで持ち出したことになる。県や市は学園の獣医学部新設に当たって多額の補助金を交付している。郷原氏は「あり得ないストーリーだ。学園側は今後、どのように説明するつもりなのか」と疑問視する。

柳瀬氏「死ぬほど実現したい」発言には理解

 文書にはその後の15年4月2日、県と市、学園の3者が首相官邸で柳瀬氏と面会した際、柳瀬氏が県と市に対し、「首相案件になっている。自治体がやらされモードではなく、死ぬほど実現したいという意識を持つことが最低条件」と発破をかけた様子が生々しく記録されている。首相はこの点について28日、「『死ぬほどがんばれ』は精神論。特区というのは大変なので、それぐらいの覚悟を持ってほしいというのは普通だ」として、文書の記述を自然なものとして説明した。

加藤厚労相は面会認める

 文書の信ぴょう性を裏付ける点は他にもある。15年2月の県、市、学園3者の意見交換で、学園側が「官邸への働きかけを進めるため、2月中旬に加藤(勝信官房副長官・当時、現厚生労働相)氏との面会を予定」と発言。その後、今治市を通じて県に伝えた面会結果として、加藤氏が「日本獣医師会の強力な反対運動がある」などと慎重な姿勢を示したことが記されている。

 加藤氏はこれに対し、文書が明るみに出た翌日の5月22日、15年2月14日に岡山県にある自身の地元事務所で面会したことを認めた。さらに国会答弁でも、学園側から「こういう状況でなかなか実現できず困っている」と相談されたと発言。面会の時期や、学園側にとって国との交渉が難航していた状況と合致する。

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毎日新聞
2018年6月1日 16時32分
https://mainichi.jp/articles/20180601/k00/00e/040/360000c