よっぽど、「蚊帳の外」批判が腹に据えかねているのだろう。南北首脳会談以降、安倍首相がしきりに日朝対話の準備をアピール。2002年の日朝平壌宣言を引き合いに「国交正常化」を目指す考えまで公言し始めたが、どこまで本気なのか。巨額の戦後補償というニンジンをぶら下げ、あわよくば金正恩朝鮮労働党委員長を拉致交渉のテーブルに着かせる――。いかにも出たとこ勝負のさもしい発想は、痛い目に遭うのがオチだ。

〈日本政府は、日朝首脳会談の年内の開催を目指し、調整を開始する方針を固めた〉

 驚きの一報を伝えたのは、7日午前のフジテレビ系のニュースだ。フジの取材に、政府高官は「彼らが欲しいのは日本の経済支援」「年内の日朝首脳会談の開催は、十分あり得る」と語ったという。

 日本が経済支援をする根拠は、安倍首相が最近よく口にする「日朝平壌宣言」だ。

「2002年9月に当時の小泉首相が初めて訪朝した際、金正日総書記と署名した共同文書です。日本側は国交正常化後に、過去の植民地支配への補償として、無償資金協力など大規模な経済支援の実施を約束しました」(外交関係者)

 しかし、北が示した「拉致被害者8人死亡」の伝達に、世論の批判は沸騰。日本政府は平壌宣言の履行には「拉致問題の解決が不可欠」との姿勢を崩さず、交渉は暗礁に乗り上げた。

 それから16年近く。安倍首相が再び日朝平壌宣言を持ち出す理由は明白だ。北との交渉ルートが見当たらない中、大規模な経済支援をチラつかせれば、貧窮する北側も対話に応じるに違いない。そうすれば融和ムードに乗り遅れず、「蚊帳の外」批判もかわせる――。そんな相手の足元を見た「甘い期待」が透けて見えるのだ。

■札ビラで頬を叩く手法は「外交」とは言えない

金正恩を振り向かせ、蚊帳の外から抜け出すために、安倍首相はどれだけの規模の経済支援を準備するつもりなのか。

 朝日新聞によると、北朝鮮は日朝国交正常化が実現すれば、100億〜200億ドル(約1兆90億〜2兆180億円)の経済支援が望めると計算しているという。1965年の日韓国交正常化に伴う経済支援では無償・有償あわせて5億ドルが支払われた。この額は当時の韓国の国家予算のほぼ2倍。今の北朝鮮の国家予算は約2兆円とされるから、経済支援が4兆円程度に膨らんだって、おかしくないのである。

「外交の基本は相手国の信頼を得ること。札ビラで頬を叩き、北朝鮮をさげすむような手法は外交というより、大人の対応とは言えません。仮に対話が実現しても、拉致被害者5人の帰国から15年が過ぎた今、北が『実は他の被害者も生きていました』と認める勝算はどれだけあるのか。安倍政権の対北外交は何ら戦略もなく、常に行き当たりばったり。蚊帳の外批判にムキになって反発し、日朝対話を模索しているだけなら、必ず深みにはまります」(外交評論家・小山貴氏)

6日付の朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は、圧力維持を掲げながら、米・韓を通じた日朝対話を模索する安倍政権について、〈悪い癖を捨てない限り、1億年経っても我々の神聖な地を踏むことはできない〉とコケにしていた。

 行き詰まった日朝外交の打開には、サッサと安倍首相にお引き取り願って、いったんリセットするしか道はない。

日刊ゲンダイ
2018年5月9日
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/228595/1