「加計(かけ)学園」の獣医学部新設を巡り、二〇一五年四月に愛媛県や学園の幹部らとそれぞれ面会した柳瀬唯夫首相秘書官(当時)や藤原豊・内閣府地方創生推進室次長(同)は、安倍政権が導入した国家戦略特区の活用を助言したとされる。藤原氏は「特別な対応ではなかった」とコメントしているが、そんな助言を実際にもらえるのか、ほかの自治体にも聞いてみた。 (池田悌一)

 「地域活性化につながると思って二回続けて構造改革特区に申請したが、国からは、『難しい』とあっさり退けられ、箸にも棒にもかからなかった」

 そう冷ややかに話すのは熊本県の担当者。一四年と一五年、自治体だけでなく農協も「道の駅」の設置者になれるよう申請したが、認められなかった。「国家戦略特区活用の助言なんて全くありませんでしたね」

 構造改革特区は自治体の提案を国が認証する手続きで、窓口は内閣府。愛媛県と今治市も〇七〜一四年に獣医学部の新設を十五回申請し、すべて却下されたが、柳瀬氏らとの面会を境に流れが大きく変わった。

 愛媛県作成の文書によると、柳瀬氏は「本件は首相案件」とした上で「国家戦略特区の方が勢いがある」と推奨。藤原氏も面会の際、「国家戦略特区の手法を使って突破口を開きたい」と述べたとされる。

 面会の事実を柳瀬氏は否定。藤原氏は認めながらも「各自治体に国家戦略特区制度をPRしていた。特別な対応ではなかった」と内閣府の調査に答えている。

 だが、構造改革特区を一〇〜一三年に三回申請し、すべて却下された神奈川県鎌倉市の担当者は「内閣府から国家戦略特区を案内された記憶はない」と話す。

 市の申請内容は、選挙経費を節約するため、時期が近接する市長選と市議選を同じ日にできるようにするもの。状況の似ている埼玉県所沢市も一二、一三年は共同提案していた。

 所沢市の担当者も「経費削減と投票率アップの一石二鳥の提案と自負したが、国には理解されなかった。国家戦略特区の話もなかった」と振り返る。

 実際、内閣府のある職員は「こちらから自治体に『これは国家戦略特区で申請して』と言うことはない」と証言する。

 今治市は一七年一月、国家戦略特区で獣医学部新設が認められ、加計学園が事業者に決定した。実は、市が国家戦略特区で認定された事業には、道の駅の民営化も含まれている。

 藤原氏は調査に「自治体との面談はルーティンだった」と話しているが、道の駅を却下された熊本県の担当者は「藤原氏と面談したことはなく、内閣府とも電話のやりとりだけだった」と強調する。「国の対応は一貫性がないですね。一度くらい官邸に呼ばれたかった」とこぼした。

<構造改革特区と国家戦略特区> 構造改革特区は、地域限定で規制を緩める仕組みで、小泉政権が2002年に創設した。自治体などが国に自らアイデアを提案するのが特徴。一方、国家戦略特区は、国が指定した地域に限って規制を緩和する制度で、安倍政権が13年に導入。国主導の「トップダウン型」で、国が「東京圏」「愛知県」「広島県・今治市」など全国10地域を指定し、各地域が農地でのレストラン開業や民泊など特例的な事業を行っている。

東京新聞
2018年4月23日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201804/CK2018042302000118.html