http://www.gentosha.jp/articles/-/9905

 インタビューが行われたのは、近代国家始まって以来の“政官最大の堕落”ともいえる、森友決裁文書改竄問題が起こる数週間前。この事件で、嘘やデタラメ、へ理屈が大好きなのはネトウヨだけでなく、国家の中枢にいるエリートもそうだったという恐ろしい事実が判明してしまった。このタイムリーな話題作『新・堕落論』で、小林さんがなぜ「日本人の堕落」を掘り下げようと思ったのか、その思いをうかがいました。

感情が劣化していると理論で手当できない。だから…

 ――――小林さんの新著『新・堕落論』を読み終えて、まず印象に残ったのが、太宰治の『トカトントン』、坂口安吾の『堕落論』、夏目漱石の『こころ』という三つの文学作品が取り上げられていることです。ゴー宣に文学を取り入れたのは、なにか意図があってのことでしょうか。

小林 今までのゴー宣シリーズでは「理論」を書いて、読者を説得しようとしていいたんです。ところが最近は、フェイク・ニュースやオルタナティブ・ファクトの時代と呼ばれるようになり、いかようにでも屁理屈をこねることができるようになってしまった。
 ケント・ギルバートの『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』なんて、めちゃくちゃでしょう。ネトウヨが喜ぶ中韓ヘイトを撒き散らし、中国人や韓国人がエゴイストで恥知らずなのは、すべて「公」よりも「私」を重んじる儒教の呪いのせいだという。儒教もマトモに勉強していないし、ネットのデマやデタラメな資料も平気で使う。

 そういう本が黙殺されるならまだしも、講談社という大手出版社から出て、40万部も売れてしまっているわけでしょう。もう、理屈なんてどうでもいいから、中国人や朝鮮人を差別して、日本人だけが立派だと書きさえすれば売れてしまうんです。
 そうなると、いくら理論を説いても、ネトウヨたちの耳に入っていかないんですよ。彼らの頭には、自分の聞きたい話しか入っていかないから。
 社会学者の宮台真司は、そういうネトウヨ的な状況を「感情の劣化」と呼んでいる。わしもそう思うよ。つまり、人間や世界に対する感受性や情緒がどんどん劣化しちゃっているわけ。感情や情緒が問題だとしたら、理論や理屈では手当てできません。もっと、古典や教養を読まなきゃダメなんじゃないかと思ったんです。

(略)